「おかげ様でDVDデッキ1個オシャカにしたんで……」
「まいったね、どーも」
日向のカミングアウトに、正邦陣も、その執念は認めざるを得ないといった様子である。
「正邦の古武術を応用したバスケは、月バスで特集が組まれるぐらい特殊なスタイルだから」
月バス愛読者でその特集記事にも目を通していた遥は、強敵正邦がどのようなチームなのかを知っていた。
勿論彼女以外にも、正邦の古武術を軸にしたスタイルを知る者はいたわけだが、単に『知っている』というだけでは駄目なのである。
「特殊ってことはクセがあるってことよ!」
遥に続きカントクも口を開いた。
つまり、いくらクセを知っていても耐性がなければ、それを理解し体が反応出来なければ意味がないということなのだ。
「そのクセから次の動作を予測するために、今までの試合全てDVDがすり切れるぐらい見たからね」
クセを咀嚼し、モノにするために必死になった代償が、DVDデッキの故障というわけである。
「つっても対応できるようになったのは後半からだけどな…」
「実際クセって言うほどあからさまなもんじゃねーし。クセに苦戦…」
「……だよな〜」
次々に言うコート上の誠凛2年陣ではあるが、もう正邦のDFは脅威ではないはずだ。
試合は完全に誠凛ペース。
そうこうしているうちに土田のシュートが決まり、とうとうスコアは70対69で逆転となった。
「逆転…!!?マジか誠凛…追いついた…!!」
残り25秒。
と、誠凛の勢いをへし折るかの如く、正邦主将が水戸部と日向を吹き飛ばす豪快なダンクを叩き込んだ。
「王者をなめるなよ!!キサマらごときが勝つのは10年早い!!!」
70対71。
残り15秒。
「なっ…!?」
「オールコートマンツーマン!?」
ここにきても尚、立ち塞がる王者。
この場面でのこの陣型───守るどころかまだ攻める気である。
最後まで王者たる姿を見せ続ける相手の姿勢は見習うべき点でもあるが、誠凛だって攻めなければ昨年と同じ『敗北』なのだ。
「うおっ…」
試合終了が迫る中、春日のマークを振り切れない伊月。
もう時間がない。
「………」
そのとき、水戸部が動いた。
スクリーンで伊月を一瞬フリーにしたのだ。
「みとれちゃうぜ、水戸部ナイス!!」
残り8秒。
「しまった…」
ボールが黒子へ渡る。
彼のパスが通れば再逆転のチャンスだ。
しかし、黒子のパスを遮るように津川が躍り出た。
「津川…!?」
ここで捕られてしまえば『勝利』が───
「テツ───」
「黒子ォオオ!!!」
遥の声を掻き消す『光』の声が、影に届いたのか。
黒子が思い切り腕を振り抜いたにも関わらず、ボールは宙に浮いたまま。
そしてそれは次の瞬間、逆の手で主将・日向へと送り出された。
「3P…!」
黒子の咄嗟の判断と観察力にも驚かされたが、日向のシュートの正確さにも目を瞠るばかりである。
彼の手を離れ綺麗な放物線を描いたボールは、危なげなくゴールへ吸い込まれていった。
「試合…終了───!!!!」
スコア、73対71。
残り時間、0秒。
END
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