「ははっ、火神の借りを…!?」


火神の借りを代理で返しにきた───交代でコートに戻った黒子は確かにそう言った。

試合に出たくて仕方がないであろうその火神は、既に4ファウル。

津川に返さねばならない借りは多い。


「大室さん!マーク変わってもらえないですか」

「はあ?なんでだよ」

「いやぁ、なんか代理人が返済にきたらしーんで!」


残り5分で6点差。

あの火神に対抗し続けたDF力を持つ津川は、黒子をどう封じるつもりだろうか。


「…………………」

「…………………」


『借り』のためにマークが変わり、対峙することとなったルーキー2人が何か言葉を交わしているようだが、遥のいるベンチまで声は届いていない。

しかし、黒子のこの言葉だけは彼女の耳にしっかりと届いた。


「先輩には先輩の意地があるなら、後輩にも後輩の敬意があります。尊敬する先輩を支えるためにも、ボクはキミを倒します」


───影が動く。


「はあっ…!?」


驚いている津川を横目に、PG伊月のパスが急角度で日向へ。

そのボールの軌道を変えてみせたのは、勿論黒子だ。

DFを掻い潜り流れるように渡ったボールは、主将の手でゴールへ運ばれた。


「うおおお、また来た!!誠凛の魔法のパス!!!」


観客からも魔法と言われるパスが、確かに正邦を撹乱している。

そして、王者相手に王手をかけるかの如く、日向がとうとう成し遂げた。


「!?」


正邦の特殊なパスを、見事止めてみせたのだ。


「なんだと!?」


遥の表情が明るくなる。

いよいよ、東京随一のDFが剥がれ落ち始めた。


「誠凛ー!!」


それからも誠凛の攻めは止まらない。

黒子の活躍でボールが水戸部へ繋がる。


「すげ…え」


まっすぐにコートを見つめたまま、思わずといった様子で声を漏らす火神。

遥は一瞬何のことかと考えはしたものの、すぐに理由に思い当たる。


「そう言えば、ベンチからテツヤ見るの初めてだっけ?」

「何今頃言ってんのよ!いつもこんなもんよ!」


今まで、ミスディレクションの関係で黒子だけがベンチにいることはあっても、火神だけがベンチにいることはなかったのだ。

その黒子の特異な強さに押され始めたのか、正邦陣に動揺が見え始めた。


「なんだよコレ…」


先程まで自信満々だった津川も挙動不審である。


「く…!?なんでだ…!?」

「コイツら…ウチの動きを完全にとらえてる…」


誠凛が正邦に勝つために行ったのは、バスケの練習だけではないのだ。


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