「───頑張って」


いよいよ試合は終盤、第4Q。

やはり王者は手強く、誠凛ビハインド。

ここで集中力を切らし、競り負ければあっという間に流れを持っていかれてしまう。

それを理解しているからこそ皆が必死に足掻く中、ボールを追った小金井が、


「とぉ、はっ、ん!?んぎゃ───」


勢い余って誠凛ベンチに突っ込んだ。


「コガくん!!」

「小金井君!大丈夫……じゃな───い!?」


ベンチに足を引っ掛け後ろ向きに倒れ込んだせいか、目を回している小金井。

慌てて自分の鞄を引っ掴み傍らに膝をついた遥だったが、ただのマネージャーである彼女にも彼の状態は一目瞭然だった。

試合は一時中断、仲間たちも駆け寄ってくる。


「軽い脳震盪だと思うけど、交代しかないかも…」

「かも、じゃなくて確定だよ、リコ」


意識が明瞭でない彼を出すのは不可能。

濁された言葉尻をさり気なく訂正しつつ、遥はカントクから小金井を預かった。

彼女には試合のことを考えてもらわねばならないし、介抱はマネージャーとして部を支える遥の仕事でもある。


「じゃあオレを出してくれ!…ださい!」

「何言ってんだ、オマエはダメだ。その元気はなんのためにとっといてるか忘れたんか、だアホ!ちゃんとケリつけてくっから待っとけ!」


試合に出たいと訴える火神に、許可を出さない日向。

吼えるようなやり取りを耳にしながら、遥は簡単な処置を小金井に施していく。

とりあえず、彼は絶対安静だ。


「だからってやっぱジッとしてるなんてできねーよ!何か先輩達の力に…」

「ボクもそう思います。だから4ファウルの人はすっこんでてください」


突如静かな声が挟まれ、手を止めた遥は彼らの方へ顔を向ける。

声の主である黒子は、火神に頭を鷲掴まれているにも関わらず平然としていた。

さすが『キセキの世代』幻の6人目である。


「なんだと黒子テメッ…」

「出ても、津川君にまたファウルしたら即退場じゃないですか」

「しねーよ!ってか、だからオレは津川にも借りがあるんだよ!!」

「…じゃあ津川君はボクが代わりに倒しときます」


確かに黒子の言う通り、火神が出たところで彼は既に4ファウル。

下手をすれば、1秒で即退場ということも有り得る。


「わかった…じゃ、1年同士津川は頼むわ。黒子」


誠凛主将・日向が下した決断は、小金井と黒子の交代だった。


「あっれ…!?てっきり火神が出ると思ったのに」


ブザーと共に黒子がコートへ入る。


「なんだ──君だけ?火神とやりたかったんだけどなー」

「すみません。力不足かもしれませんが」


露呈してはいないものの、黒子の中にあるのは誠凛への、また勝利への強い思い。


「借りがあるそうなんで返しに来ました。代理で」


誠凛対正邦、スコアは58対64で残り時間は───5分。




END


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