「1本!!ここ大事にいくぞ!」


誠凛OFは伊月からだ。

ここをどう攻めるかは、ゲームメイクを担当する彼次第である。

目の前で厚いDFに徹しているのは、同じ司令塔の春日。

その奥に全員がマンツーマンで散らばっているのだが、やや特異体質である彼には、これら全てが見えているらしい。


「…………」


コート内を把握した伊月が動いた。

日向へパスを出し、逆サイドへ走る。


「!!?」


それを追う春日が味方と衝突のアクシデント。

その間にゴール下まで走り抜いた日向から伊月にボールが戻り、誠凛に追加点だ。


「うおお決まった!!」

「すげぇよ誠凛…王者正邦に負けてねえ…!!!」


今のはなかなか見せ所のある、鮮やかな展開だっただろう。


「クッソ、右サイドで展開してたのに…逆サイドのオレをスクリーン代わりに使いやがった…」


伊月はマッチアップ相手の春日を振り切るために、別の人物をマークしていた相手選手と彼を衝突させて足止め───つまり、意図しない相手同士のスクリーンを実現させたのだ。

このようなゲームメイクはそう出来るものではない。

それこそ、コートを上から見るぐらいでないと───。


「伊月君は見えるのよ。『鷲の目』を持ってるからね!」

「……!?」


『鷲の目』という聞き慣れない単語に驚いている様子の火神。

この特殊な『目』が、伊月の武器なのである。


「彼は身体能力は恵まれてないけど、頭の中で視点を瞬時に変えられる。つまり物を色んな角度から見れるから、常にコート全体が見えてるのよ」


カントクの説明に賛同するように、遥も頷いた。


「俊の目はほんと司令塔向きだよ。普段も色々助けてもらってるけどね」


2年間同じクラスである伊月の『鷲の目』───視野の広さには、遥もよく世話になっているのだ。

カントクも何処か誇らしげである。


「大丈夫って言ったでしょ。日向君達は万能じゃないけど、みんな1つは特技を持ってる。しかもそれを1年間磨いてきたのよ」


誠凛メンバーには、『キセキの世代』のように、他を寄せ付けない飛び抜けた才能があるわけではない。

しかし、己の特性を理解し、それを活かすための努力は欠かさなかったのだ。


「やっぱスゲェっす先輩達…じゃあ小金井先輩と土田先輩も…!?」

「え…うん。小金井君は全範囲からシュートが打てるわ!!」


ちょうど、コート上の小金井がシュートを放った。

が、ボールはリングに弾かれる。


「けど成功率はそこそこ」

「それけっこー普通じゃね!?」


きっぱり言い切るカントクに、火神のツッコミが決まった。

全範囲からシュート可能だが成功率がそこそこ、というのがまた器用貧乏・小金井らしいところである。


「ツッチーくんはリバウンドが得意なんだよ」


精神的支柱・主将日向の3Pに鷲の目を持つ冷静な伊月のゲームメイク、黙々と勤しむ水戸部のフックシュートと何でもそこそここなす小金井の活躍とリバウンドが得意な常識人・土田のプレイ。

これが後輩たちにも誇れる、誠凛2年の姿なのだ。


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