王者を倒しI・Hで優勝するため、そして何より『先輩の意地』のためにルーキーを温存した誠凛。

昨年とはもう、何もかもが違う。


「先輩の意地ね〜〜〜…。…は〜〜〜ん。いいね〜、好きだわ〜そーゆーの」


緩い彼らしい言い回しで評価しているようではあるが、正邦司令塔・春日の雰囲気が僅かに変化した。


「先輩ってもオレと1つ違うだけじゃーんっ」

「オマエもうマジ黙っとけ!」


津川は相変わらず良くも悪くも素直だが───


「……受けて立とう。来い!!」


正邦主将・岩村は春日と同様に誠凛を『敵』と認識しているらしく、正々堂々受けて立つ姿勢を見せている。

此処からが本当の勝負所、正念場だ。

誠凛に残された選択肢は、ただひたすらに挑み、この厚い壁を粉砕するというもののみである。


「んじゃ、遠慮なく。行くぞ正邦!!」


ビハインドながら、スコアは30対31。

今のところ、いい感じに食らいつけている。


「何を深刻な顔してんの!みんなそんなヤワじゃないから大丈夫よ!余計な心配しないで声出しなさい!」

「……ウス!」


叱咤と共に、カントクの拳骨が火神の頬にめりこんだ。


「ごめんね2人共」


そんな中、突如切り出された遥の謝罪に、先程までコート上にいたルーキーたちは目を丸くして振り向く。

遥は試合を気にしながらも、後輩たちに言った。


「試合出たかったよね。でも2年生だって弱くないんだよ」


昨年の大敗を知り、この試合に絶対勝ちたいと言った黒子。

正邦ルーキーをぶち抜き、勝利への道を切り開いた火神。

2人の心意気、そして才能は今の誠凛に必要不可欠なものである。

だが、だからと言って2年が頼りないというわけではないのだ。


「だから、此処から見ててほしい」


と、試合が動いた。


「ああ───」


正邦選手のレイアップを、まず日向がブロック。

攻守交代、続いてボールはPG伊月から水戸部へ渡る。

水戸部のマークは正邦主将だ。

しかし寡黙な彼は動じることなく身を返し、ボールを片手で持ち上げた。


「……!!」


岩村のブロックを掻い潜るに適したフックシュート。

正邦には初披露となるのだが、今の水戸部は頼りになるフックシューターなのだ。


「凛ちゃんナイス!」


正邦OF、ボールを操るのは春日である。


「なんの〜〜〜まだまだ」


口調と同様に緩く軽いタッチで放られたボールは、あっさりとネットを潜った。

なんとも柔らかいスクープショットだ。


「なんのっ!!」

「おおお、誠凛もすぐに返した!!」


リスタート後、すぐさま勢いに乗る小金井が追加点。

流れは悪くない。

ただひたすら『勝つために』励んできた練習の成果が、ありありと見て取れる。


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