「この試合、2人がフル出場すれば正邦に勝てる可能性は上がる。が、次の秀徳に勝てる可能性はない」
当然ではあるが、準決勝をクリアしなければ決勝はない。
「2人を温存すれば正邦に勝てる可能性は大幅に下がる。…が、決勝リーグへ行ける可能性が数%残る」
だが、決勝に控えるのは『キセキの世代』の緑間。
それらを天秤にかけた結果の決断───というのが理由の1つだ。
「いや、疲れててもなんとかして…緑間倒してみせますよ!それに……」
「火神君…言う通りにしましょう」
「なっ?」
火神は怪訝そうに黒子を見やる。
もう1つの理由───先輩の『本音』を、黒子は悟ったらしい。
「ボクは先輩達を信じます。それに大切なのはきっと…もう1つの理由の方です」
「誠凛メンバーチェンジです!!」
火神と黒子の代わりに出場するのは、誠凛2年、6番の小金井と9番の土田だ。
「いやー、ひっさしぶりだわ出んの」
「んじゃ、いーとこ見せちゃおーぜ!ツッチー!!」
即戦力なルーキーの出番が多かったせいか、遥がこの2人を揃って見送るのは久しぶりである。
「順ちゃん、俊、凛ちゃん、コガくん、ツッチーくん」
全員に声をかければ、5人の視線が遥に向けられた。
博打のような決断にも関わらず、皆いい表情だ。
その場から動けないマネージャーは、出来る限り笑ってみせた。
「いってらっしゃい」
「───しっかり見てろよ」
優しい笑顔と頼もしい返事が返ってくる。
遥は大きく頷いた。
「あーらら!いなくなっちゃったか〜〜〜。まぁちょっと物足りないけど…いっか!」
「最近の1年はどいつもこいつも」
相変わらずな様子の津川に、日向は溜め息1つ。
途端、彼の雰囲気が一変した。
「ガタガタうるせぇぞ茶坊主が。今からお前に先輩への口のきき方教えてやるハゲ」
「ちゃぼっ…!?」
準備も整ったところで試合再開である。
ゴール前、ボールを持つ日向の壁となったのは、茶坊主・津川と主将・岩村だ。
それらのDFを掻い潜ったパスが水戸部へ渡る。
そして彼のダンクで力強い追加点。
「さっきの話聞こえたが、まさか秀徳に勝つつもりとは…ウチもなめられたものだな」
「ああ、あんなん建前っすよ。もう1つの理由が本音だけど、別に大したことじゃないんで」
岩村からのごもっともな言葉に、日向はあっさりと落ち着いて返した。
勿論目指すは日本一、誠凛は正邦にも秀徳にも勝つつもりではいる。
が、ただ『勝つ』だけでは意味がない。
見守ることしか出来ない遥は、雪辱戦に挑む彼らを食い入るように見つめていた。
「雪辱戦に1年に頼って勝っても威張れないじゃないすか。……とどのつまり」
ほぼ毎日を共に過ごしてきた仲間たちの背中は、こんなに大きかっただろうか───。
「先輩の意地だよ」
END
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