タイムアウト終了後、何か思い付いたのか、火神は伊月に声をかけた。
伊月は誠凛の司令塔、攻撃は彼から始まる。
「伊月センパイ…ボール回してもらえないすか」
「え?」
「もっかい津川とやらせてください」
見たところ、やる気は十分。
しかし今までの動きを見る限り、彼はまだ津川についていけていない。
上手く丸め込まれている状態で、どう挑むつもりなのだろうか。
「…じゃ、いいか?任せて。なんか秘策あり?」
「いや…けど、とどのつまり同じ人間すよね?相手より速く…ぶち抜きゃいいんだよ…です」
ベンチを片付けながらルーキーの様子を見守っていた遥だったが、腕を回す火神の背中からは、本当に『ぶち抜く』という意思しか読み取れなかった。
秘策はないが、相手より速く動けばいい───考えとして間違ってはいない。
「うおお〜、なんだソレ。大丈夫か?」
「たぶん大丈夫です」
さすがにやや呆れた様子を見せる伊月に返事をしたのは、同じルーキーである黒子だ。
彼はこの中で一番、火神を信じ評価している人物なのかもしれない。
「やる時はやる人です」
試合が再開された。
火神が頼んだ通り、早速ボールは彼へ渡る。
対峙する誠凛ルーキー火神と正邦ルーキー津川。
「古武術だろーがなんだろーが知るか。バスケはバスケだろ!」
右、左───右。
津川の体が反応出来ない、鮮やかなチェンジオブペース。
これといった策を使わず、火神は津川をぶち抜いてみせた。
「はっやっ…!!?」
誰も火神のスピードについていけないまま、ボールはネットを潜る。
誠凛初得点だ。
「おおおマジか今!?」
「はえぇ──電光石火!!!」
沸き返る観衆の声に混じり、遥も驚きの声を漏らした。
「ほんとにぶち抜いた…」
いくら動きが独特で、秀でたDF能力があったとしても、この速さを封じることは出来なかったらしい。
誠凛期待のルーキーは、期待せざるを得ないルーキーの間違いのようだ。
しかし次の瞬間、遥は不安から目を瞠ることとなる。
「へえぇ…初めて見たぞ。オマエが抜かれるとこ」
「……ははは」
正邦5番、司令塔の春日が火神に抜かれたばかりの津川に話し掛けたとき、
「いや、これからですよ〜。楽しくて苦しいのは!」
彼は確かに笑っていたのだ。
END
← return
[3/3]