話を振られた遥は、後ろから黒子の肩を掴み前へ押し出す。
「…遥先輩」
彼は僅かに首を捻り名を呼ぶが、遥はお構いなしに彼の体越しに顔を覗かせた。
「テツヤ、ちょー頼れる子だから期待していいよ」
「…レギュラーって話はホントなのね」
「うん」
遥はさも自分のことのように笑顔で首を縦に振ると、リコから黒子へと視線を移す。
黒子は困っているような呆れているような、複雑な表情で遥を見下ろしていた。
「あれ、テツヤ何でそんなに困ってるの?」
「アンタが黒子君を全面に、ついでに前面にも押し出してるからよ」
リコのツッコミにその通りと言いたげに、今度は黒子が眉を下げたまま頷く。
そのやり取りが意味している関係に気付いたらしい1年生が、突如声を上げた。
「え、マネージャーが1コ上の帝光出身!?ってまさか!」
「あの『キセキの世代にとって唯一で最小の鉄壁』!!?」
中学時代にバスケ部所属であったのだろう1年生にとっては馴染みのある名称が登場し、また周りが騒がしくなる。
黒子の肩から手を離して彼の隣に並ぶと、遥は両手を胸の前で振り苦笑してみせた。
「あー、その噂ね、うん。そうだけど違うよ」
「…ただでさえ噂だった話が更に噂になった結果なんだと」
日向が補足するように説明するも、1年生たちは頭上に『?』を浮かべんばかりに表情を歪めている。
どう言えばいいのかとやや迷いながら、遥は言った。
「キセキの世代との1対1の話でしょ?彼らを止めたことがあるのはホント。でも勝ったっていうのはウソ。彼らより強いっていうのもウソ。だから唯一で最小の鉄壁っていうのも…ちょっとはホントだけどやっぱりウソ」
「「んんん…?」」
本人からの説明が抽象的だったために、意味を汲み取れなかった1年生たちは余計に混乱したらしく首を傾げている。
そんな納得出来ない様子の1年生の中に1人、自分の話にではなく黒子に目を奪われている部員がいることに遥は気が付いた。
いつの間にかリコの用事は済んだらしく、黒子は1人シャツを着直しているところだ。
「オイ、ちょっと聞きたいんだけど…帝光中とか、キセキのなんたらとか」
どう見てもタダ者ではない彼が隣の1年生に訊ねている姿を見てから、遥はこの後のことを話し合っているのであろう日向とリコの許へと駆けていく。
「順ちゃん、リコ、私新しいタオル出しに部室行くね。他に何かしとくことある?」
「いーや。今日は軽く見るだけだから、大丈夫だろ」
「そうね…もしかしたら途中で呼ぶかもしれないけど」
「了解です」
遥が部室へ向かい始めると、体育館に練習開始の声が響いた。
「じゃあ今度こそ練習始めるわよ!」
その声を背に、遥は髪を耳にかけながら微笑む。
「さて、仕事しますか」
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