「ありがとうございましたー」
顔馴染みの店員の定型文を背に、行きつけのコンビニの自動ドアを抜けて外に出る。
夕焼け空の下、端の方で壁に凭れている人物に近付くと、遥は買ったばかりのペットボトルを差し出した。
「本当にこれで良かったの?」
「ん」
短く肯定の返事を返しながら、青峰は"超スポーツドリンク"と書かれたそれを受け取る。
早速封を切ると勢いよく喉へ流し込んだ。
「味はフツーだな」
売られている店が限られているだけでなく、一般的なものより少々値が張るそのドリンクは、ビタミンなどの栄養素が豊富だと今売り出し中のものであり、遥から青峰へのご褒美の品だった。
思い起こせば1ヶ月程前、考査を控えたバスケ部で青峰の成績についてが話題に上がったときのことである。
幼馴染みのさつきのノートにより九死に一生を得ているが、彼はあまり頭がいい方ではない。
しかし何を思ったのか、そのとき青峰は"オレに何か得なことあんなら、まあがんばるけど"と、遥に視線を送りながら言ったのだ。
そしてその結果がこれである。
「飲むか?」
青峰は遥の前でペットボトルを揺らしてみせた。
遥が頷いて受け取ると、彼は首を鳴らしながら歩き出す。
慌てて一口流し込んでから、彼女は後を追った。
「ほんと、味は普通のスポーツドリンクだね」
「"一味違う"ってあのCM、嘘かよ」
遥がペットボトルを青峰に返したとき、橙色に染まった通りを抜けた2人は公園に差し掛かっていた。
肩にかけていた鞄を下ろし、青峰は傍らのベンチに腰掛ける。
ペットボトルに口を付ける彼の隣に、遥も腰を下ろした。
「…てか」
青峰は上半身を前へ倒し、膝の上に肘をつく。
前を向いたまま、手持ち無沙汰にペットボトルを弄びながら彼は言った。
「アイツ誰?」
「アイツって…誰?」
遥はすぐさま聞き返す。
彼の視線の先を辿っても、"アイツ"らしき人物は見当たらない。
「こないだオレが教室行った時に話してたアイツ。サッカー部主将の」
「あ、分かった」
これも今から1ヶ月程前の話になるが、学年が違う遥の教室に青峰が顔を出した日があった。
そのとき確かに、彼の言う"アイツ"と話をしていたのだ。
「で、誰だよ」
「え?だからサッカー部の主将だけど」
青峰は目を丸くして固まった。
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