(日常)



放課後の2─Aには、クラスの3分の1程の生徒が残っていた。

テスト前ということで部活もなく、それぞれテスト対策に忙しそうだ。

友人から借りたノートを写すのに忙しい者もいれば、小声で問題を出し合う者や、黙々とプリントに何かを書き込んでいる者もいる。

焦りはあるものの比較的過ごしやすい空間で、遥は自分にあてがわれた机に向かっていた。

机上に広げられているのは数学の教科書に数学の問題集、そしてそれらに埋もれているルーズリーフ。

愛用のシャープペンシルを片手に、遥の真剣な眼差しが先程からこの3つを行き来している。

彼女の隣の席には、同じクラスで同じ委員、更に同じ部活である伊月がいた。

此処は彼の席ではないが、持ち主はとっくに帰宅したらしく我が物顔で腰を据えている。

遥の方を向くように横向きに腰掛けてはいるのだが、切れ長の双眸は手にした英語の教科書へと向けられていた。

いつもはコートを見渡すのに忙しい目は、今はアルファベットを追うのに忙しいらしい。


「………」


順調に数式を綴っていた遥の手が止まった。

問題集の問を確認してから教科書へと手を伸ばす。

それらしき公式を見つけると、当てはまりそうなものを入れて式を作り、再度シャープペンシルを動かし始めた。


「……?」


しかしどうにも上手くいかず、またすぐに手は止まる。

やり直しても同じように詰まり、公式を見直しても同様、完全に手詰まりとなってしまったとき、横から伸びた手にシャープペンシルを奪われた。


「遥の考え方は間違ってないけど、これじゃなくてこっちが先」


極近くで彼女の耳朶と鼓膜を震わすのは、聞き慣れた声。

身を乗り出した伊月が、中途半端に連なる数字と記号の下に、新たな式を書き込んでいく。


「それから、次はこの公式使えばいいよ」


解を導き出すのに必要な説明を簡潔に行うと、伊月はシャープペンシルを遥に返した。


「ありがと」


隣の席へ振り返り小声で礼を言えば、何事もなかったかのように英語の教科書を持ち直していた伊月は目元を和らげる。

自身の勉強をしていても、遥に何かあるとすぐ分かるのは彼の優れた目のおかげだろう。

彼女が手も足も出なくなったところでヒントを提示しているのが、また憎らしい。

遥は教えられた通りに問題を解いていった。


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