(微ヤンデレ風味)



普段の七瀬遥は気に食わない。

マネージャーである彼女は、部活中は此方が驚く程に賢く的確に動くが、それ以外ではただのお人好し、八方美人、偽善者という言葉がお似合いな人だ。

バスケに関わると、という点では、敦と同じ人種なのかもしれない。

あの2人が姉弟みたいだと言われるのも頷ける。

学年が違うのに、廊下で黄瀬と戯れる姿がよく目撃されていると言うし、部活外では時に母、時に姉、時に妹、時に先輩、時に後輩、そして時には友人として部員と接しているようだ。

だからこそ、マネージャーとしての彼女を知っているからこそ、普段の彼女は腹立たしく、非常に好ましくない。


「それで赤司くん、相談って?」


部活終了後、部員全員を速やかに帰宅させ、彼女とオレだけになるように仕組んだ。

相談したいことがある───そう告げれば、後輩思いの彼女は二つ返事で居残りを了承した。


「分からないんです」


彼女との距離を詰め、部室の端へと追いやる。

入口を正面に後退する彼女に、出口を与えるつもりはない。


「分からない?」


彼女は首を傾げる。


「何でも出来るって感じの赤司くんにも、分からないことあるんだね」


ああ、腹立たしい。


「上手く答えられるか分からないけど、話してくれる?」


そう言って彼女は柔らかく、優しく包み込むように微笑んだ。

その温かそうな両の瞳が。

甘ったるい言葉を吐く口が。


「……赤司くん?」


忌々しい。


「────っ!」


表情を掻き消すように、彼女の顔の真横にそれなりの力を込めて両手を突く。

両耳の近くで激しい音が鳴ったせいか、驚きやすい彼女は感心してしまう速さで顔を引き攣らせ、大きく肩を跳ねさせた。

距離が更に縮まったため、その脅えた瞳に自分が映り込んでいるのが確認出来る。


「ビックリした…」


詰めていた息を吐き出した彼女の瞳が細められた。

淡い色をした艶やかな唇が、何事もなかったかのように動く。


「えっと、それで何が分からないの?」


例えるなら、気の抜けた炭酸やぬるま湯とでも言えばいいのか。


「貴女のことがですよ、七瀬先輩」


いっそ、その全て見透かしているような目も、反吐が出るような言葉を紡ぐ口も、跡形も残らないぐらいに消し去ってしまいたい。

そうすれば"分かる"気がするんです。

ねぇ、七瀬先輩。

オレは多分、貴女を───。




胸を穿つイト


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