(シリアス+ほのぼの風味)



遥が自室の机で予習に励んでいたときだった。


「!」


手元にあった携帯が小刻みに震えて着信を知らせる。

驚いてシャープペンシルを取り落とした遥だったが、ディスプレイに表示されている名前を見て更に驚くこととなった。


「もしもし、どうしたの?」


通話ボタンを押して耳に押し当てると、気だるそうな声が返ってくる。


『んー、別にどうもしてない』


記憶通りの間延びした口調に、遥は小さく笑みを漏らした。


「敦が電話なんて珍しいのに?」

『んー、何か久しぶりに遥ちんの声聞くのもいいかなって』

「上からだね」


紫原が自分の目の前にいたのなら、きっとお菓子を口に入れながら首を傾げて見下げているのだろう───遥の脳裏に、暫く見ていない後輩の姿が安易に浮かび上がってくる。


「相変わらずお菓子ばっかり食べてるんでしょ?新しい味あった?」

『限定のがね〜。でも』


紫原は逆接で言葉を切った。


『そろそろ遥ちんのお菓子不足』

「大分会ってないもんね」


遥は懐かしげに目を伏せると、予習のために広げていたノートを閉じる。


『遥ちん…会いたい』


控え目に落とされた声は酷く頼りない。


「私が作ったお菓子に、でしょ?」


冗談めかして訂正した遥だったが、返ってきたのは予想を超えた本音だった。


『お菓子もだけど、遥ちんに会いたい。ダメ?』


遥はすぐに返答出来ず、息を詰める。


「………秋田と東京、ちょっと遠いね」

『うん』

「今はお互い部活で忙しいだろうし」

『うん』

「でもいつか…インターハイとかでこっちに来ることあるだろうし、対戦することもあると思う」

『うん』

「そのときに色々話そうね。お菓子も用意する」

『……うん』

「だから───」

『遥ちん』


紫原の覇気のない声が遮った。


『多分好きにはなれないけど、やめないと思うから』

「うん」


遥は目を瞑る。

そこに浮かぶ姿は───。


「じゃあ次会うまでに先輩呼び出来るようになっとこうね」

『えー』

「えーじゃないの」

『えー』




いくつ寝るとその日が来ますか?


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