(シリアス風味)「遥、じゃあ先帰るわね」
「うん、お疲れ様ー」
「お疲れー」
部活終了後、いつもなら帰路を共にしている友人たちを見送ると、遥は一番最後に部室を出た。
何だかんだ仲の良い後輩たちはお気に入りのファーストフード店にいるだろうし、同期たちも騒がしく帰っているだろう。
今の仲間たちに思いを馳せながら、彼女は1人学校を後にした。
仲間たちに追い付いてしまうかもしれない帰路を避けて、急ぎ足で指定された場所へ向かう。
到着したのは、誠凛から少し離れたストリートだ。
歩いて移動出来ない距離ではないが、けして近くもないので、見知った顔に出くわすことは少ないだろう。
奥のコートは使用中で、ダンクでも決めたのか、ゴールが激しく音を立てた。
「大輝」
Tシャツで軽く顔を拭いながら振り返った少年は、近付いてくる遥を認めると意地悪気に口角を上げる。
「おせーよ、遥」
少年の制服と鞄の横に、遥も自分の鞄を下ろした。
そして両手を腰に当て、彼の前では恒例の説教開始。
「先輩つけなさいっていつも言ってるでしょ?学校違っても先輩は先輩なんだからね」
「オマエ第一声いつもそれだな」
「誰かさんのせいでね。さつきは来てないの?」
「は?何でさつき?」
「いつも一緒じゃない」
「ちげーよ」
青峰は話しながら指先でボールを回して遊んでいたが、突如それを高く放り投げる。
遥はそのボールの行く末を追って彼から目を逸らした。
「………っ」
すると彼女の視界が激しく揺れ、熱い何かに身体を包まれる。
体格差のせいで肩しか見えていないが、耳に入った乾いた音から、高く放られたボールがネットを潜ったのは分かった。
「…大輝」
背中に回る腕の力が強くなる。
遥を待つ間の暇潰しのせいか、高い体温と仄かな汗の香りが感じられた。
肩に顎を乗せるように擦り寄ると、青峰は遥の耳へ誘い文句を吹き込む。
「1on1───しよーぜ」
遥は腕の中で目を瞠り、身を強ばらせた。
「今誰もいねーし、此処なら出来んだろ」
遥を解放すると、青峰はゴール下に転がったボールを拾う。
「楽しませてくれよ、遥サン」
「終わったら晩ご飯食べに行こっか」
数秒痛々しげに目を伏せ、次に青峰を捕らえた彼女は、先程とは打って変わって深く、力強い眼差しだった。
「───プレイヤーだったら良かったのに」
零れた本音は風が攫っていく。
コートの中心で男女が向かい合った。
聞こえているよ、貴方の心の声。
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