目が開けていられない程厳しい日差しが照りつける外を窓越しに眺めながら、遥はこんもりと皿に盛られた赤い氷をサクサクとスプーンで崩していた。

誠凛から程近いところにある、この個人経営の喫茶店の夏限定新作メニュー・かき氷である。

薄く青みがかった透明の貝殻をモチーフにしている器に、溢れんばかりに山盛りの白い細かな氷、そしてその白を塗り潰すかのようにたっぷり回しかけられたシロップは定番のイチゴ味。

山頂の練乳はプラス料金のかかるオプションだが、これは先日終了したテストで先生として遥に数学を教えた伊月からのささやかなご褒美だ。

彼の教え方が良かったからか遥の並々ならぬ努力のおかげか、今回数学で学年5本の指に入ることが出来たのである。


「思ったよりイチゴいっぱい入ってる…」

「ホントだ」


キラキラと瞳を輝かせる遥の向かいの席で、この店お馴染みのコーヒーゼリーをつついていた伊月が少しだけ身を乗り出して言った。

脇に添えられたイチゴだけでなく、スプーンで氷を崩せば崩す程、中から瑞々しいイチゴの果肉が姿を見せる。

窓の外では行き交う人々が汗を流しながら鋭い日光を浴びているが、店内は空調がきいているし、何よりこのかき氷のおかげで、遥の制服の中を滝のように流れていた汗はすっかり引いていた。


「甘くて美味しい…癒される…」

「遥を見てたらオレまで涼しくなってきたよ」


スプーンを口に入れ、広がる甘さを噛みしめる。

練乳の甘さ、イチゴシロップの甘さ、イチゴの果肉の甘さ、そして細かく舌触りの良い氷の瑞々しさ。

それらを存分に味わってから喉奥へと流し込んだ。


「俊もかき氷にすれば良かったのに」

「んー…まあ、この店ではやっぱりコーヒーゼリーかなって」

「美味しいもんね」


個人経営ならではのメニューは全て手作りで、コーヒーゼリーもマスターのお手製のものである。

常連である遥もその美味さはよく知っているので、素直に相槌を打った。


「帰るのもうちょっと時間遅らせる方がいいよね」

「だろうな。今外に出るのはヤバそうだし」


窓の外では、太陽がアスファルトを容赦なくじりじり焼いている。

あまりの気温と日差しのためカントクが急遽部活中止を言い渡したのだが、正しい判断だったに違いない。

あの蒸し風呂状態の体育館で練習しようものなら、何人か熱中症になっていたことだろう。


「ポカリの粉、追加で買っとこうかな」

「悪いな、何から何まで。いつもありがとう」

「ううん、それがマネージャーの仕事だし、好きでやってることだから」


本心ではあるが、改まって礼を言われると擽ったいものだ。

そわそわしてしまった遥は、照れ隠しでサクサクとかき氷を掻き込む。

求めていた甘さが、体に染み渡っていった。


「…可愛いな」


ポツリと漏らされた声に手を止め、正面を見る。

食べきってしまったコーヒーゼリーの器を前に肘をつき、その上に頬を載せていた伊月がふっと目元を和らげた。

間違いなくその視線は遥に注がれている。


「シロップがイチゴだから、唇が赤くなってて」

「…あ」


かき氷のシロップは色映りがしやすい。

当然、唇だけでなく舌も真っ赤になっているだろう。


「何かいつもより可愛い」

「…もう」

「ごめん。でも本心」


本当はいっそその赤い唇に今すぐ触れたい───なんて言葉にも顔にも出さず、伊月は照れて少し困りながらもかき氷を食べ進める遥をただ見ているだけだ。

甘い甘いかき氷は、まだまだ皿にたっぷりと残っていた。




その赤を奪いたい

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