差出人不明のメールが届いた。

いや、正確にはアドレス帳に登録していないだけで、見覚えのある見知った者からのメールである。


『明日10時に駅前に来い。』


まるでスケジュールを知り尽くしているかのようなメールに、遥は返事を打つ手を止めた。

明日は世間的に休日であり、誠凛バスケ部の活動も休み、そして特に用事のなかった遥は自宅でのんびり過ごすつもりだったのだ。

それをこの男の思い通りにされるのは、どうもいい気がしない。

しかし翌日、一晩悩んだ遥は、指定された場所へ指定された時間の5分前にしっかりと出向いたのだった。


「…………いない」


休日の駅前は老若男女様々な人で賑わっている。

めかし込んだ女の子たちはきゃーきゃーと楽しそうに盛り上がっており、ベビーカーを押す若い夫婦はにこやかに笑いながら目の前を歩いていった。

少し向こうには、仕事仲間の集まりなのか、普段はスーツに身を包んでいるのであろう男性たちのグループもある。

そんな雑踏の中ぽつんと1人佇んだ遥ではあったが、次の瞬間安堵か嫌悪か表現しがたい感情に襲われることとなった。


「来てくれたんだね」

「…私が来ること分かってたんでしょ?」

「まぁね」


"誰が見ても好青年"の仮面を貼り付けた彼───花宮真は困ったように肩を竦めてみせる。

その仮面は勿論だが、しっかりアイロンの掛けられた品のある襟付きシャツにズボン姿の彼からは、育ちの良さも感じられるではないか。

どうやらそう思ったのは遥だけではないらしく、密かに周りがざわつき始めた。

お坊ちゃん校・霧崎第一の生徒で、模試では当然の如く輝かしい位置に君臨している花宮は、そもそも言わずと知れた有名人なのである。


「花宮くん大人気だね」

「そんなことないよ。七瀬さんが可愛いからじゃない?」


"悪童"である彼からは想像が出来ないようなセリフを、優等生モードの花宮は躊躇いもなく口にする。

実際腹の中は真っ黒で反吐が出そうな程かもしれないが、それを知らない人からすれば"頭脳明晰で女性の扱いもスマートな青年"といったところだろう。


「なんか……花宮くんじゃないみたい」

「そう?」

「うん。正直ずっとそっちならいいのに…って思うけど、結局は偽りだから、花宮くんに失礼になるかもしれないね」

「ふはっ」


いつものように吹き出すと、花宮は"行こうか"と遥の手を強引に取って歩き出した。

足を縺れさせながらついていく遥だったが、自分を導くその手がバスケを感じさせるものであり、そしてまたけして痛みを感じさせるものでないということに気付き、何とも形容しがたい葛藤が生まれる。

それは花宮も同じであったらしく、彼は密かに仮面を外しながら、遥の顔を見ることなく言った。


「………本物のバカだな、オマエは」




Persona's Masquerade

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