(日常)


2年生になり、もう何日かすれば後輩が入ってくる時期になった。

先輩として情けない姿を見せるわけにはいかない面々は、勿論普段手を抜いているというわけではないが、自然と練習に力を入れるようになってきている。

そうすれば必然的に怪我や備品不足が目立ってくることとなり、マネージャーである遥は毎日忙しく駆けずり回っていた。

カントクであるリコも合間にマネージャーとして働いてはいるが、それでも猫の手を借りたいぐらい仕事はある。

誠凛高校男子バスケットボール部の主将は、そんな状態に気付かない主将ではなかった。


「ねえ順ちゃん、私は大丈夫だからもう帰って。今日もリコにシゴかれてくたくたでしょ?」

「だアホ。そりゃ疲れてはいるけど、それは七瀬も一緒だろ」


「でも…」と遥は不安そうに日向を見る。


「ほら、さっさとやっちまうぞ。空気入れは任せろ」


誰もいなくなった体育館に響く、有無を言わさぬ声。

外は暗さを増し、段々と夜へ変わりつつあった。

出番が多いためこまめな調整が必要なボールの空気入れから破損物確認、備品不足分の見積もりなど、マネージャーの仕事を居残ってすますつもりだった遥。

部員たちのモチベーションを保つためにも、彼らの手を借りずにこなしてしまいたかったのだが、案の定部員をよく見ている日向に見付かり今の状態になったのだ。


「うん、ありがと」


日向が手伝いを買って出たおかげか、遥の予想よりも遥かに早く任された分の仕事を終えてしまいそうだった。

ボールが突っ込んでしまった舞台裏の破損物を素早く確認した後、よく働いてくれている救急箱の中身に目を通し、不足分を書き出した上で大体の金額を計算する。

ちょうどそれが終わろうとした頃、日向が背後からメモ用紙に手を伸ばしてきた。


「あー、荷物持ちで誰かつけた方が良さそうだな」

「そうだね、ここ何日か救急箱凄い活躍したし、その方が助かると思う」

「全く、大した怪我してねーからいいけど、どいつもこいつも体調管理がなっとらん」

「練習に力が入ってるのはいいことなんだけどね」


遥は苦笑しながら救急箱を元の場所へ戻す。

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