「今日のホームルーム、ドッジボールやるから。先生対お前らで」


教師のひょんな一言により、本日最後の授業が校庭でのドッジボールになった遥たちは、手に汗握る試合を固唾をのんで見守っていた。

早々に一掃された女子は全滅、男子も次々と外野へ追いやられ、今は唯一残った男子生徒対教師の一騎打ちだ。


「虹村ー!ここで男見せろよー!」

「大丈夫、お前なら出来る!」

「うっせーよ!」


最後の砦となった虹村は、クラスメイト全員の期待を背負い、教師と向き合った。

相手は大人、それでいて大人気ない程本気で生徒を潰しにかかる教師である。

ただのお遊びなはずのドッジボールが、もはや生き残りを賭けた試合のようだ。

とは言っても、内野が虹村1人なだけで残りの生徒は皆外野である。

1対クラス全員と有利である点に変わりはない。


「遥、アンタはやっぱ虹村派?」

「何が?」

「センセーか虹村か、どっち?」


それは愉快そうに友人に肘をつつかれた遥は、きょとんと目を丸くした。

大事な部分が省かれた友人の一言が脳内を駆け巡る。


「修くんかな、多分。負けられない…負けちゃいけないから」

「あぁ、バスケ部の。いやでもそれ部活ででしょ?」

「そうだけど、それでもスポーツで簡単には負けられないよ。主将だもん」


バスケ部主将として才能を遺憾なく発揮しているときのような鬼気迫る雰囲気を纏いながら、虹村は積極的に攻撃を仕掛けていた。

自らも勿論だが、外野の友人たちを使うのも上手い。

例えホームルームの一興でも、もう虹村自身もすっかりその気のようである。


「じゃあその虹村が勝ったら、遥からハグのご褒美ってことで」

「えー?何で?」

「虹村ー!アンタが勝ったら遥が特別に、出血大サービスでハグしてくれるってー!」

「はァ!!!??」


遥は肯定も否定もしていないが、大声で叫ばれた公約はあっという間に虹村の耳に入った。

動揺たっぷりな彼の手元が狂いボールを落としかけるも、そこは持ち前の運動神経で何とかカバーしすかさず投げ返す。

そして今度は足を滑らせた教師が体勢を崩し、呆気なくボールは零れ落ちてしまった。


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