(切甘風味)



校舎裏の静かなところにキミはいた。

両の手で覆われているせいでほとんど顔は見えないけれど、その薄い肩が震えているのは分かる。

隙間から射し込む日の光で彼女の手が、ほんの少しだけ見えている頬が光った。


「……………」


泣いている彼女には失礼な話だけど、その姿は綺麗だ。

赤い目元から輝く涙が溢れ、それを拭うために動く白くて細い手も濡れてしまっている。

目元と同じように鼻も赤くしている彼女の表情を見るのは心苦しい。

でも綺麗で、なかなかこの場から動けなかった。


「……っ、りん、ちゃ…」


視線に気付いたのか、彼女がこちらを見た。

見開いた瞳から涙が零れ落ちていく。

眉は悲しげに寄せられているし、声はか細く震えていた。

胸が痛い。

確かに綺麗だと思ってしまったのは自分だけど、今はそれ以上に心臓がある辺りが痛い。


「…凛ちゃん…」


どうして、そんな顔をしているの?

優しいキミは、尋ねても答えてはくれないんだろうけど。


「ごめんね」


違う!

謝ってほしいわけじゃない。

ただそんな顔を見たくないだけなんだ。


「えへへ…すぐ泣き止むから」


キミには笑っていてほしい。

笑顔が見たい。

でも今みたいな我慢している顔は、笑顔なんて言わないよ。


「ごめんね」


そうじゃない。

そうじゃないんだ…!


「……っ…」


距離を縮めて、その濡れてしまっている腕を引く。

抱き止めた身体は自分とは比べ物にならないぐらい細くて、か弱くて、柔らかくて…少し力を入れただけで崩れてしまいそうだった。


「…………!」


きっとキミは今、さっきと同じように目を大きく見開いているんだろうね。

大丈夫。

何も見てないし、キミには何も見えないよ。


「凛ちゃん…」


腕の中の彼女が、躊躇いがちに制服を掴む。

ゆっくり頭を撫でて、そのまま耳を塞いであげた。

何も聞かなくていいよ。


「………あったかい……」


吐き出されたのはほとんど吐息。

ねえ、気持ち伝わってるかな。

もう泣かないで。

何で泣いているのか話してくれなくていい。

今は何も見なくていいし、何も聞かなくていい。

全部隠してあげるから。

だからね、お願い七瀬さん。


「凛ちゃん…ありがと」


きっとまだ彼女の頬には涙が伝っているんだろう。

見えないし見るつもりもないけど、顔を埋めたままの彼女がいつものように微笑んだ気がした。




なかったことには出来ないけれど




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タイトルの後半部にはお好きな文章を補足してやって下さい。
別に1年時の話である必要はないのですが、この頃の方が校舎裏でひっそり泣きたいことも多そうだし、この頃から凛ちゃんって呼んでますという証明にしたかったのでこちらになりました。


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