誠凛バスケ部にとって、主将がマネージャーを説教しているシーンなど、見慣れすぎて寧ろ普通なぐらいの光景だった。

誠凛高校の2年生にとって、2―C日向が2―A七瀬の世話を母の如く焼いていることなど、もはや周知の事実だった。

だがこの日、皆が皆己の目を疑うような事態に直面していた。

あの七瀬遥が日向に説教しているのである。


「ねぇ順ちゃん、聞いてる?」

「………聞いてる…………聞いてます」


しかも現場は昼休みの2―C前廊下。

人目はかなり多い。

そしてその光景をたまたま目撃してしまったバスケ部仲間の3人は、食堂で買ったばかりのパンを手に立ち尽くしていた。


「え、あれって日向と七瀬ちゃん…!?」

「………みたいだな」


賛同を示し困り顔で頷いた水戸部の目線の先で対峙する2人は前述の通り、立場がいつもと逆である。

唇を尖らせ感情を露にしている遥は所謂お人好しなタイプなのだが、そんな滅多に怒ることのない彼女に、日向は一体何をしたというのだろうか。


「七瀬、オレだって…」

「オレだって、何?」


思いがけない冷えた返答に、日向はやっとの思いで絞り出した言葉を飲み込むこととなった。

七瀬遥大いに怒る、である。


「まじで日向、七瀬に何やったの?セクハラ?」

「え、とうとうやっちゃったの!?」

「ヤダー!」

「オイコラ待て誰だセクハラとか言った奴!してねーよ!」


辺りを取り囲む野次馬達がざわざわと騒がしくなった。

春の恒例行事のせいでバスケ部は有名であるし、そもそも学年で色々と話題の多い2人なのだから、憶測もヒートアップしてしまっている。

勿論これらは濡れ衣であるが、同級生達からすれば嘘か真かはどうでもいい話だ。


「順ちゃんなんか…リコに甲冑全部折られちゃえばいいんだ」

「戦国武将フィギュア(甲冑シリーズ)ね!決まるシュートも落とすぐらいダメージでけーよ。つかもうちょっと来い!」


ぶつぶつ文句を言いながら女子生徒を引っ張る日向、ぶつぶつ文句を言いながら男子生徒に引っ張られ消えていく遥。

残された同輩達の脳裏にはより熱のこもった様々な憶測が飛び交ったが、最終的に皆同じ結論に至ったのだった。


「「カップルの痴話喧嘩じゃないよね?つか日向まじで何したの?」」


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