(背中合わせのモノクロームの続き)


「また1人なのか」


低いが艶のある声が鼓膜を揺らすと同時に、遥は身の毛がよだつ程に恐怖で雁字搦めになった。

嫌でも記憶から消えない"あの男"の声だ。


「……いつも一緒にいるわけじゃないよ」


どこか気品漂う制服を着込んだ面々の最前、それらを率いていた様々な意味でトップの男は騒ぎ始める仲間たちを制すると、それは愉快そうな笑みを浮かべて気丈な姿勢を崩さぬ彼女を見下ろした。

2人を繋ぐのは、赤い糸のようなロマンティックなものではない。


「ふはっ、むくれんなよ七瀬遥。可愛い顔が台無しだぜ」

「花宮くんもいろんな意味で台無しになってると思う」

「手酷いな。どうやらオレはすっかり嫌われてるみたいだ」


不機嫌を前面に押し出す遥に対し、肩を竦めてみせた花宮は至極楽しそうだ。

巷で有名なお坊ちゃん学校である霧崎第一高校のがたいのいい生徒数人が、新設校である誠凛高校の女子生徒1人を取り囲む姿は端から見ればそれは怪しい光景だろうが、残念なことにこの裏道には今当事者たちしかいない状況なのである。

つまり、遥は完全に四面楚歌。

さて、霧崎第一きっての秀才・花宮相手からどう逃げ切るか。


「花宮くんのことは正直嫌いだけど、でもそんなに嫌いでもないよ」

「ふはっ、光栄だよ。そんな風に思ってもらえて。世界で唯一の存在だろうしな」


するりと伸びた花宮の手が遥の顎を捕らえた。

無理矢理上を向かされた遥の瞳は不快な色を映してはいるものの、彼の手を振り解くことはなかった。


「オレは結構気に入ってるんだがな」


より一層笑みを濃くした花宮は、獲物を見定めた肉食獣のようである。

本当に残念だ───と、美しくも歪んでしまっている彼の顔を見つめ返しながら、遥は声を出さずに呟いた。

"悪童"では片付けられないような言動は度を過ぎて許すことが出来ないものもあるが、やはりどこか嫌いにはなれないし、そしてどうしても好きになれない。

この感情をどう呼べばいいのだろうかと物思いに耽っていると、花宮が怪訝そうに口を開いた。


「遥」

「!」


急に現実に引き戻された遥は明らかな動揺を見せる。


「ずっといい名前だと思ってたんだよ。本当に」


この一言が上辺の、言葉通りの意味で発せられたのではないということに瞬時に気付いた霧崎メンバーからは嗤いが起きる。

しかしそんな嗤いを物ともせず、むしろそれを掻き消すように、遥は言った。


「名前で呼びたいならそう言えばいいのに」

「……!?」


今度は花宮が動揺する番だった。

同じく、背後で大人しく嗤っていた面々も面食らった。

さあ、勝負の行く末は?




向かい合わせのステイルメイト

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