人々で溢れかえる東京駅。
ちょうど小腹が空くこの時間、駅から少し外れた一角の喫茶店に2人はいた。
その店自慢のパンケーキを少しずつ頬張る凸凹な2人は、女の子らしい淡いピンクの空気に包まれている。
一見ガールズトーク真っ最中な雰囲気だがしかし、一方は紛れもなく男性だ。
「そう言えば、コタくんと根武谷くんは?一緒に来ると思ってたんだけど」
「せっかく久しぶりに遥と会えるっていうのに、煩いのと汚いのを連れてくるわけないでしょ?」
「そうなの?」
「そうよ」
相変わらずどこかズレたまま納得した遥だったが、そんな彼女へ様々な意味で溜め息を吐きながら、彼は滑らかな仕草でパンケーキを切り分ける。
「それより真っ先に征ちゃんの名前を出さないなんて…あの2人ご愁傷様ね」
「何となく、征十郎と玲央は一緒に来ないだろうなって思って。あ、2人が仲良くないとかそんな意味じゃないよ」
「分かってる。ほら、アイス溶けてるわよ」
実渕は再度溜め息を吐いた。
慌てて目線を手元に落とし、溶け出したアイスに四苦八苦している遥は無冠の五将と同学年で顔見知り、また高校バスケ界では少々有名な現役マネージャーなのである。
無冠だの何だのと騒がれる実渕たちから見ても注目せざるを得ない彼女は、あのキセキの世代の主将である赤司にも様々な意味で割り切られ認められていた。
その"様々"にけして簡単ではないもの───誰しもが抱く"ソレ"が含まれていることに実渕は少なからず気付いている。
勿論己にも、そして遥の中にも"ソレ"があるということも。
厚い壁で遮られているとは言え、今これを手中へ汲み取ることを阻む者はいない。
「ごめんなさいね、征ちゃん」
クス、と微笑と共に零れ落ちた謝罪は、しゃぼん玉のように数秒ふわふわと宙を漂ってから消えてしまった。
「…………ごめん玲央、聞いてなかった。もう1回言ってくれる?」
「ただの独り言よ。それより遥、今度は髪がクリームにつきそう…あぁもう、ホント手がかかるんだから」
向かいの席から少しだけ身を乗り出し、実渕は高々と存在を主張している白い山へ浸かってしまいそうだった遥の髪を耳に掛けてやる。
バスケに打ち込む高校生男子とは思えない程、繊細で丁寧な所作により露になった彼女の頬は、ほんのり紅く染まっていた。
「ちょっと、マンガみたいに頬にクリームつけるなんて器用ね」
「え、何処?」
「はい、ストップ」
触れるか触れないかの距離で優しく頬をなぞり擽ってやれば、予想通り遥は抵抗もせずに目を伏せただけだ。
ふるりと震えたその全てを飲み込んでしまうかのように、実渕の双眸が揺らめく。
「……お持ち帰りしてもいいかしら」
「京都まで?」
「ええ」
「テイクアウト出来るのかな…それに結構遠いから冷めちゃうかも」
「また温めればいいわ。何度でもね」
齟齬に気付いたのか、きょとんとした遥は首を捻った。
「……?」
「遥にしては上出来。でもそうね…ちょっと遅かったわ」
妖艶に微笑んでみせた実渕は女性より美しく、そして遥より数倍も────。
コル・レオニスの行方
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