(日常)
「凛ちゃん先生、お願いします!」
両手を伸ばして突き出された先の包みを見下ろし、凛ちゃん先生こと水戸部は静かに頷いた。
誠凛バスケ部の2年メンバーが集まる昼休み、弁当やパンを片手に昼食にありつこうとしていた仲間たちの目はもう釘付けである。
遥が差し出した包みを丁寧に受け取ると、皆の視線に怯えながらも、物静かな彼はそれは丁重に包みを開封していった。
「…………弁当?」
呆気に取られた日向の言う通り、中から顔を出したのは何の変哲もない弁当箱である。
一般的なサイズで男性が食べるには物足りなさそうな2段のそれには、おにぎりや卵焼きといった典型的なものから野菜や肉まで多種多様なものが詰め込まれていた。
具材の種類も豊富だが、その彩りも鮮やかだ。
なかなか手が込んだ弁当に、思わず周りからも感心の声が上がる。
自分の昼食のパンに齧りつきながら、事の成り行きを把握している伊月が遥を見た。
「磯辺が言ってた今度のコンテストのやつ?」
「うん、出るからにはちゃんとしとこうと思って」
「いや磯辺って誰だよ。つか何だコンテストって」
「磯辺はウチのクラスの遥の友達。コンテストは来月の手作り弁当コンテストのことだよ」
伊月が冷静にツッコミに返すと、今度は何故か満足げに木吉が頷いてみせる。
「あれだけ練習したんだ。遥の作るモンは美味いよ」
「ありがと」
「にしてもホント美味しそうよね。勿論栄養面も考えてあるんでしょ?」
「うん、一応は」
リコの特異な瞳でも、さすがに栄養値まで見ることは出来ないが、しかしそれが容易な弁当でないことは一目で分かることだ。
お膳立ても十分なところで、いよいよ誠凛バスケ部1料理の上手い水戸部による試食の時間がやってきた。
控え目に箸で取って口へ運ぶ。
数十回しっかり咀嚼して嚥下。
合間にお茶を挟みつつ、また次のものへ箸を伸ばす。
それを幾度か繰り返した後、水戸部は穏やかに微笑してみせた。
声に出しはしなかったが、その感想は遥にしっかり伝わっている。
「ううん、そんなことないけど…ありがとう」
「
七瀬さんは努力家だから絶対結果として返ってくるし、皆そんな七瀬さんが大好きで信じてるから安心してほしい。大丈夫だよ」
「うん、凛ちゃん大好き」
「コガ!コガ通訳!」
「えー!いいなー水戸部。オレも七瀬ちゃんの弁当食べたい!」
「美味そうだよな」
「いや待て先に通訳して!何て会話したの今!?」
今日も誠凛バスケ部は平和である。
空白昼食
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