生徒たちにとって有り難いチャイムが鳴り響き、"ここテストに出すからな"と、捨て台詞を残した教師が教室を出て行った。
「ねぇ修くん」
休み時間に突入したため、ダルそうに背筋を伸ばす生徒やさっさと教科書を片す生徒が見られる中、どちらかと言えば前者側で欠伸を噛み殺していた虹村は、ノート片手に自身の前にやってきた少女を見上げた。
彼は男女問わず友人がいる方ではあるが、"修くん"などと親しげに声をかけてくる友人は1人しかいない。
想像通り、部活でもほぼ毎日顔を合わしている同じクラスの遥を視界へ入れると、もう何度目か分からない既視感に虹村は瞬時に事態を把握してしまう。
───実際体験しているわけなので、厳密には既視感ではなくただの記憶なのだが。
「今日は何処だ?」
「応用4。先生は話聞いてたら分かるって言ってたけど…」
「あァ、ありゃアイツの説明の仕方に問題あんだろ」
ノートを机上へ置かせると、虹村は素早く公式を書き込んでいった。
順序立てて矢印を書き加え、分かりにくい言い回しで説明していた教師の台詞の根底を綴るのも忘れない。
「なるほど…」
「これで何とかなんだろ。他は?」
「ありがとう。今のところは大丈夫」
書き込まれた文字を眺め、どうにかテストは乗り切れそうだと、遥はこくりと頷いてみせる。
「まぁ七瀬は大丈夫だろーけど…落とすんじゃねーぞ」
「うん、補習は免れるように頑張るよ」
「補習イコール出停・降格圏内だからな」
「私マネージャーなんだけど…その場合どうなるんだろうね?」
「マネージャーだろうが、何かしらペナルティーはあんだろ。多分」
そもそもこの2人も勉強面でも部活動面でも評価を得ている方であるのだが、バスケ部は全体的に文武両道の生徒が多い。
そのためこうは言うものの、実際補習のために出場停止や降格になったという部員やマネージャーは、2人の知る限りではいないのである。
勿論、あのスローガンも理由の1つなのだろうが。
「ねぇ修くん、今日の練習は何するの?」
「まだ詳しく聞いてねーけど…昨日の感じだとゲームに重点置くんじゃね」
「そっか…楽しみだね」
「もうテストよりバスケの話か」
「だってまだテストまで日はあるし、バスケ好きだし」
暢気なものだと嘆息混じりの主将に対し、頭の中がすっかりバスケに切り替わっているマネージャーは楽しげに微笑んでいた。
「修くんも好きでしょ?」
その問いかけに切れ長の双眸を僅かに見開き、虹村は息詰まる。
いつも穏やかで甘ったるい彼女は、こうして唐突に核心を突いてくるから恐ろしい。
「……今更だろ」
バスケ部所属であれば至極当たり前の質問だったが、彼はたっぷり時間をかけて頷いてみせた。
虹村主将とマネージャー
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