その日は至極暑かった。

天気予報で気温が上がると聞いてはいたものの、ここまで澄み渡った青空とは想定外だ。

あちらこちら走り回り、直射日光をまともに浴びているサッカー部やテニス部などは練習にならないのではないか───と、他の部活を心配している余裕はない。

容赦なく照りつける太陽から直接のダメージはないものの、蒸し風呂状態の体育館内はそれはもう茹るような暑さだった。


「ラスト1本!これ終わったら休憩入っから出し切れよ!」

「っす!」


ただでさえキツい練習に、この暑さ。

しっかり休憩を挟まなければ、命に関わってくるかもしれない。

体育館を走り回るバスケ部員たちの顔色を窺いながら、遥は熱い溜め息を吐いた。

彼らのように汗が滴り落ちる程ではないが、本当に暑い。


「七瀬」

「修く…主将、どうしたの?」


暑さでぼーっとしている間に、休憩に入ったようだ。

この休憩より先に必要なものは全て用意してあったため、想定外のこと以外で大きな仕事はないはずである。

がしかし、タオル片手に汗を拭いながら遥に声をかけた主将・虹村は、それは不快そうに眉間に皺を寄せた。


「どうしたの?じゃねーよ、バカかお前は」


いきなり罵倒された遥は、乾いた舌を動かすことも出来ず首を傾げる。

そもそも彼はあまり言葉遣いが宜しい方ではないが、それにしても意味が分からない。


「口開けろ」

「…え」

「飲め」

「修くん、待っ…」

「四の五の言わず飲めや」


口元に押し付けられたのは、先程用意したばかりのドリンクだった。

濃度も温度も緻密に計算されているそれが、強制で遥の喉へと流れ落ちていく。

同時に、体全体に何かが巡っていく感覚。


「人の体調不良はすぐ気付くくせに、自分の体調不良には気付かねーんだな」

「痛っ」


身を屈め遥の顔色を鋭い眼差しで見定めながらも、虹村の拳骨はぐりぐりと彼女の頭にめり込んでいた。

容赦ない力に痛みは増すが、先程より視界も意識もしっかりしているようである。


「頼むぞマネージャー。お前がいねーと話になんねーからな」

「修くんも無理は……あ」


遥の動きがピタリと止まった。


「ごめん、私修くんのドリンク飲んじゃったんだよね?新しいの作ってくるね」

「や、予備ある………って人の話聞けよ」


虹村が引き止めるより早く、遥は脱兎の勢いで体育館を出て行ってしまう。

そんな2人のやり取りを見ていたらしい周りの部員たちから、揶揄を含んだ笑いが起きた。


「一歩上手って感じなのに、天下の主将・修クンも遥チャンには敵わねーな」

「虹村ぁ、ただでさえアチーのにイチャつくなって」

「…お前ら全員今から外走ってこい」




青天白日要注意

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