踵を地から離し、両の爪先に力を込める。

そうして細心の注意を払いながら、目線の先へと利き腕を目一杯伸ばした。

後数cm、後数mm───


「あれ、七瀬さんやんか」


唐突に耳に入った自分の名に、遥は漸く指先に触れたばかりの本を取り落とさん勢いで振り返った。

ひらひらと手を振りながら歩み寄ってくるのは、シャツにズボンというラフな格好ながらも、どこか知的さが滲み出ている他校生。

眼鏡の奥の瞳はそれは穏やかに細められているが、彼が色々な意味でそれは凄い人物だということを、遥はよく知っていた。


「今吉さん…!お久しぶりです」


他校生とは言っても先輩は先輩、ましてや対戦歴もあれば遥の中学時代の後輩がいるチームの主将である。

反射的に頭を下げた遥だったが、そない畏まらんでえぇよ、とすぐさま苦笑気味の関西弁が返ってきた。

おおらかと言えばいいのか気さくと言えばいいのかそれともいっそ狡猾と言えばいいのか───さすがあの熱血漢若松や問題児青峰を従えているだけはある。


「1人て珍しいんとちゃう?桃井が言うとったけど、自分の周り大体誰かおるんやろ?」

「ど、どうでしょうか…」


一体どんな情報なのかと、後輩マネージャーに戦きながら遥は言い淀んだ。

言われてみれば確かに、なんだかんだで1人で行動というのは珍しいかもしれない。

現に今だって、1人で図書館に来たものの、結局他校の先輩と遭遇しているのだ。


「まぁ、オレとしては良かったんやけど…これでえぇの?」


遥の隣に並んだ今吉は壁の如く立ち並ぶ本棚から、背表紙が不自然に飛び出したものを抜き取った。

そしてそのタイトルに目をやり、顔を顰める。


「"論文の書き方"……?」

「あ、はい。国語の授業の宿題で」

「今から論文がどうこうて、誠凛はえらい勉強に力入れてるんやな」


学年別で順位を出され、下位生徒に補習が課せられるぐらいなのだから、彼の言う通り誠凛は勉強熱心な方なのだろう。

遥へその本を渡すと、続いて今吉は別の本へと手を伸ばした。

タイトルから見るに、どうやらそれは小論文に関する書物のようだが、その厳かな表紙や厚みを見ても分かるぐらい何やら難しそうなものである。


「今吉さんは受験勉強…ですよね?」

「まぁ一応。ずーっとバスケしとるわけにいかんし」


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