(友情)


「リコ先生、勉強教えて下さい!」

「……は?」


両手に抱えた教科書やらノートやらを突き出して、真剣な様子で訴える遥を目の前に、リコは教室の前の廊下でぽかんと佇むこととなった。

時刻は放課後、テスト期間前ということで教室で勉強をしている者もちらほら見かけるが、ほとんどの部活動は休みとなっているせいもあり、辺りはしんと静まり返っている。


「え、何、どしたの?遥が勉強教えてなんて…休んでたっけ?」

「ううん、休んではないんだけど、今回はホントにダメかもしれなくて」


リコの記憶の中では、遥は成績上位を争う程勉強が得意というわけでもないが、勉強を教えてもらわなければならない程苦手というわけでもないはず。

授業もそれなりに真面目に受けるタイプなため、重要な日に欠席していたならまだしも、そうではない今回のようなケースは意外なものだった。


「リコの勉強時間を減らすことになるのは分かってるんだけど…」


切実な願いなのだと、懇願の意を込めて遥は友人を見つめ返す。

学生として"勉強"という名の仕事を疎かにすることなく、全身全霊でバスケに打ち込むと誓ったメンバーの1人・誠凛バスケ部マネージャーとして、成績下位は許されない。

いつもはそこまでテストに不安はないのだが、苦手教科の更に苦手な範囲がテスト範囲である今回は、さすがに嫌な予感しかしなかった。

友人・相田リコは家庭科の調理実習のような一部分を除く全ての教科において優秀なタイプであり、成績上位陣常連組な彼女の力を借りれば最低限のレベルはクリア出来ること受け合い、勿論指導力がある点も身をもって理解している。

そのため教師として相応しい人物に、彼女以上の知り合いはいない───という結論に至ったのだ。


「わかったわ。そのかわり、スパルタでいくからね!」

「う………はい、リコ先生!」









2─Cの一角で、もう何度目か分からない嘆息が響いた。


「なんでこんなとこで間違えるのよ……」

「…ごめんなさい」

「いや、わかってるのはわかったんだけど…うっかりしすぎ」


真っ直ぐ伸ばされた人差し指をぐりぐりと額に突き付けられ、遥は眉間に皺を寄せて唸る。

もう片手でずり落ちた眼鏡を元の位置へ戻しながら、リコはどこか嬉しそうに口角を上げた。


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