その日、誠凛バスケ部の部員たちはヤケにそわそわと落ち着かない様子だった。

バスケ界では有名なあの帝光中出身、"キセキの世代の幻の6人目"である黒子テツヤと、同じく帝光中出身で"キセキの世代"と関わりの深い先輩マネージャーである七瀬遥が、部活が終わるや否や自分たちのやるべきことをすませると、揃ってそそくさと出て行ったのだ。

中学校時代からの先輩後輩の間柄故、この2人の仲の良さは誠凛バスケ部内では周知の事実である。

そのため、2人で何処かに出掛けるのであっても何らおかしいことはないし、部員たちも別段気にすることはなかった。

が、しかし。

今目の前に広がっている光景に、居心地の悪さと好奇心との板挟み状態である誠凛バスケ部員たちは、そわそわとそれはもう落ち着かない様子なのである。


「テツヤ、どっちがいいと思う?」

「どちらも遥先輩らしくてお似合いです」


その理由は単純明快。

黒子テツヤと七瀬遥のデート現場に遭遇してしまったからだ───。









「どっちも捨てがたいなあ…」


お気に入りの洋服屋の前で、両手に持った服を掲げて唸る遥。

襟刳りの装飾に大きな違いがある以外大して差がないブラウス2枚を交互に見比べているのだが、どちらも好みのデザイン・色使い・手触りなために決定打がないのである。

その隣で彼女を見守る後輩は、表情を変えぬまま淡々と言った。


「どちらもお似合いですが、こっちの方が先輩の雰囲気に合っているような気はします」

「…じゃあこっちにしようかな。ちょっと待っててね」


黒子が示した方のブラウスをもう一度まじまじと眺めてから、遥は会計を済ませるために店内奥へと歩み出す。

二つ返事で頷いてみせると、黒子はその背を見送った。

───が、何かを感じたのか、ふと後ろを振り返った。

彼の丸い双眸に映るのは、何の変哲もない街並み。

もうすっかり見慣れてしまった、いつもの光景である。

その光景───虚空を暫し見つめていた黒子だったが、会計を済ませた遥に声をかけられると、すぐさまそちらへと歩み寄った。


「テツヤ、待たせてごめんね」

「いえ、待ってませんから。それに、ボクの用事にも付き合ってもらうわけですし」


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