"オレと真ちゃんと遥サンで鍋パしません?"

───そんなお誘いメールが他校の後輩・高尾から送られてきたのは、今から1週間程前、季節も移り変わり寒さを感じ始めた頃のことだ。

特に断る理由も見当たらなかった遥が二つ返事を返し、あれよあれよと言う間に決まった、鍋パーティー略して鍋パの日が今日なのである。

開催地は、たまたま家族が出払っているらしい高尾宅。

遥は高尾宅を知らないため、最寄り駅で一旦集合し彼の家へ向かうこととなったのだが───


「え、真太郎来ないの?」

「何か急用らしくて。ま、2人で楽しくやりましょ」


そこで別段困った様子もなくいつもの調子で告げられたのは、共通の知り合いの欠席だった。

そんなこんなで急遽、遥と高尾の2人鍋パーティーが開催されることとなったのである。









「じゃ、遥サンは座ってて下さい」

「真太郎いないし、私も手伝うよ?」

「準備はオレと真ちゃん、ヤバい時のストッパーと補佐が遥サン、片付けは全員って決めたじゃないっすか。もうほとんど準備出来てるし、任せて下さいって」


自宅へ案内するや否や、茶目っ気たっぷりにウインク付きでそう言った高尾は、エプロンをつけながら遥を席につかせた。

テーブルにはもう、コンロも取り皿もしっかり用意されている。

どうやらキッチンにも、ある程度の食材が入れられた土鍋が準備されているらしい。

何もすることがなくなった遥は、鼻歌混じりで火にかけた鍋をお玉杓子でかき混ぜる彼の後ろ姿を横目に、そわそわと落ち着かない様子だった。

緑間がいればまた違ったのかもしれないが、初めてお邪魔する後輩宅で、エプロン姿がよく似合う後輩に料理を作ってもらっているという珍しい光景に、不思議と鼓動は高まっていく。


「そんな慌てなくても、もーすぐですって」


鷹の目で背後もばっちり見えているのか、笑いを漏らしながら振り返らずに言う高尾。

手持ち無沙汰で妙に緊張していた姿を見られていたのかと思うと、遥は咄嗟に言い返せなかった。


「……っ」

「冗談っすよ。あ、鍋行くんで気を付けて下さいね」


テーブル中央のガスコンロの上に土鍋がセットされる。

先程温めてあるため、もう一煮立ちすれば食べられるだろう鍋には、野菜や肉が所狭しと並べられていた。

いよいよ、2人だけの鍋パーティー開幕だ。


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