(日常)



「七瀬センパイっ、それオレやります!」

「センパイ、何か手伝えることありますか?」

「七瀬センパイ!」


───誠凛バスケ部はまだ創設2年目の、歴史の浅い新米の部である。

顧問の武田教諭は確かにバスケ部の顧問ではあるが、活動自体には関与せず、練習は勿論試合でさえも部員たちが各々指揮をとっていた。

監督も2年生、主将も2年生、中心メンバーも当然2年生。

そのため、所謂雑用などは専ら1年生が受け持つこととなるのだが、選手ならびに部活全体のサポートを担当する2年生マネージャーも、1年生に混ざり色々と動き回っているのである。

そのマネージャーである遥からすれば、1年と言えども皆選手なのだから、彼らの手伝いをして選手として満足のいく練習が出来るようサポートするのは、至極当たり前のことだった。

しかし1年側からすれば、様々な意味で話はまた別なのである。


「七瀬センパイ、オレ手伝います」


1年生たちが漸くカントクの練習についてこれるようになり、誠凛バスケ部員らしくなってきた頃、通算何度目か分からない申し出が遥の鼓膜を揺らした。

体育館脇の水道でボトルを洗っていた遥が手を止めて振り返ると、そこには未だ幼さの残る後輩部員が真剣な面持ちで立っている。


「ありがとう、降旗くん。でも大丈夫だよ」

「や、その……手伝わせてください!」


カントクと主将にがっつりしごかれた後なのだから、心も体もくたくただろうと考えての返事だったのだが、懇願の眼差しを向けられてはそう簡単に無下には出来ない。

強い意志を孕む双眸に、遥は首を縦に振ることにした。

とは言っても、ボトルを洗うだけなのだからそんなに手間はかからない。

2人で行えばあっと言う間だ。


「これでよし、と…」


後は備品を部室に戻せば遥の仕事は終了、というところで、降旗がおずおずといった様子で口を開いた。


「あの…七瀬センパイ」

「ん?」

「この後、時間もらえないですか?」


困ったように眉を下げながらも、やはり彼の瞳には確かな"意志"が見て取れる。

元々他の2年よりは話をする機会が多いぐらいではあったが、最近特に時間を共にすることが多かったのは、遥に用があったからなのか。

後輩からの誘いを断る理由もなく、またも彼女は首を縦に振ったのだった。


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