(もれなく甘口とリンク)


テスト前の土日と言えば、部活動もなく、一般的に勉強のために用意された休日だ。

普段比較的真面目に授業に参加している遥も、家で大人しく月曜からのテストに備えようとしていた。

が、しかし。

たまたま東京に来ていた、現在秋田の高校に通う後輩の紫原に呼び出された彼女は、土曜日を彼と過ごしてしまったため満足に勉強が出来ていない。

それ故、朝からやけに張り切り、今日こそは月曜初っ端の英語の対策をしようと意気込んでいたのだが───


「……!」


昨日と同じように、机の上に置きっぱなしだった携帯が短く震える。

メールを受信したようだ。

この時期、プリントのコピーがどうこう、テスト後提出の課題がどうこうと、何かと友人とのやり取りは増えるものである。

だがメールの差出人は、またもただの"友人"ではなかった。


『駅前で待ってる』


メールの本文は一行のみ。

そして問題の差出人は、


「敦…?」


昨日会ったばかりの、中学時代の後輩・紫原敦だった。

彼の目的───ケーキ屋への案内───は、昨日果たしたはずである。

今日の夜、新幹線で秋田に帰ると聞いてはいるが、まだ何か用があるのだろうか。

不思議に思いながらも、遥は外出準備をし始めた。









「………あれ?」


駅前の人混みの中、確実に見付けられるであろう身長2メートル以上の後輩の姿が見当たらない。

その代わりに、独特のオーラを放つ同級生の姿が目に入った。

向こうも遥に気付いたらしく、何やら話をしていたらしい女性2人に別れを告げる仕草を見せてから、優しい笑みを向けつつ歩み寄ってくる。


「ハルカ」

「辰也くん…!?」


返事の代わりに口角を上げると、彼は控え目に両手を広げ、壊れ物を扱うかの如く遥を包み込んだ。

挨拶の域の軽いハグを仕掛けたのは、遥の高校の後輩である火神の兄貴分で、紫原の高校での先輩にもあたる氷室辰也である。

数度優しく背中を叩いてから遥を解放した氷室は、あやすかのように彼女の頭に手を乗せた。


「久しぶりだね」


髪を梳く要領で頭を撫でつつ、目線が合うように彼は腰を屈める。


「うん、久しぶり。さっきの人、良かったの?」


心地好さげに瞳を細めながらも、遥は訊ねた。

氷室の数メートル後ろに、彼と話をしていた女性2人の姿が確認出来る。

上品に着飾った彼女たちは、遥たちよりいくつか年上に見えた。


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