季節柄なのか、ここ最近天候は荒れ気味だった。

昼間は日差しが痛いぐらいの快晴だったのに、夕方になって突如ぶ厚い雲が空を覆い隠し、大粒の雨が激しく地面を叩く───なんてことも珍しくないぐらいだ。

そして本日、せっかくの休日を真面目に勉学に費やしていた男女も、この嵐に巻き込まれてしまっていた。


「先にお風呂借りました」


着慣れない大きめの部屋着に身を包み、遥は唯一明かりが点いている伊月の部屋へ足を踏み入れながら言う。

タオル片手に髪を拭いながら振り返った伊月は、彼女を視界に入れると口角を上げた。


「おかえり。こっちは大丈夫そうだよ」

「良かった…。あ、俊も早く入ってきて」


部屋の主である伊月の腕を引いて無理矢理追い出すと、扉を背に、遥は彼の部屋を見渡す。

鞄こそ濡れてしまっているが、ローテーブルに積まれている本やプリントは無事なようだ。

もっとも、これが無事でなければ、図書館の司書に顔向け出来ないわけだが。

ローテーブルの前に腰を下ろした遥は、課題のために伊月と2人で選んだ本に手を伸ばした。

そのとき。


「────────!!!!」


何の前触れもない激しい轟音に、遥は声にならない声を上げて竦み上がる。

木の一本でも裂いたような雷鳴。

息を殺した遥が高鳴る鼓動を落ち着けようと縮こまっていると、追い討ちをかけるかの如く大きな二発目が響き渡った。


「近い、よね…」


確かめるような遥の声に、返事は返ってこない。

部屋には彼女しかいないのだから、当然と言えば当然だが。


「……………」


上がったばかりの体温が徐々に逃げていくのが分かる。

出来るだけ小さくなっていると、トドメのような三発目の雷が鳴り響いた。


「……うそ…」


同時に、先程まで室内を煌々と照らしていた電気が消える。

窓から入る光があるため真っ暗にはなっていないものの、部屋は一気に薄暗くなった。


「………どうしよ……」


図書館の帰りに豪雨に見舞われ近くの伊月家に避難したわけなのだが、家族は全員出払っており、今は伊月と遥の2人しかいない。

ブレーカーを上げてどうにかなる問題にしろ、一度彼に会う必要があるのだ。

が、しかし。


「…………!!!」


不定期に存在を主張する雷が、遥の動きを奪っていた。

ビビり体質な彼女は、けして雷自体が怖いわけではない。

驚きやすいため、いつ鳴るか分からないあの大音量の和音に過剰に反応してしまうだけなのだ。


「……俊」


風も出てきたのか、薄白い光を採り入れている窓が細かく音を立て始める。

遥は窓を見つめながら両手で耳を塞いだ。

一般的に、雷の音は光ってから鳴り響くものである。

確実ではないにしろ、空を見ている方が幾分心構えが出来るはずだ。


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