テスト前の土日と言えば、部活動もなく、一般的に勉強のために用意された休日だ。

普段比較的真面目に授業に参加している遥も、家で大人しく月曜からのテストに備えようとしていた。

文系教科の暗記をすべきか、理系教科の問題をひたすらこなすべきか、それとも月曜初っ端の英語の対策をすべきか。

どこから手を付けようかと悩んでいると、机の上に置きっぱなしだった携帯が短く震える。


「……!」


メールを受信したようだ。

この時期、プリントのコピーがどうこう、テスト後提出の課題がどうこうと、何かと友人とのやり取りは増えるものである。

しかし、メールの差出人はただの"友人"ではなかった。


『たすけて』


メールの件名に気になる一行。

本文は空白。

そして問題の差出人は、


「敦…?」


現在秋田の高校に通う、中学時代の後輩・紫原敦だった。

この難解なメールを受信したのは、ほんの数秒前だ。

折り返せば電話に出るかもしれない。

遥は素早くメール画面を閉じ、通話画面に切り替える。


「あ、敦?メール見たけどどうし───」

『遥ちん助けて〜。室ちんどっか行った』

「───え?」









「敦!」


駅前の人混みの中、佇む大きな背中に声をかけると、紫頭の彼は長めの髪を揺らしてゆっくりと振り返った。

腕に下がるのはお菓子が詰まっているのであろうコンビニの白い袋、そして賞味中のお菓子はお気に入りのチップスのようだ。


「遥ちん久しぶり〜」

「うん、久しぶり。それ美味しい?」

「まあまあ…?」


疑問符が疑問符で返ってくる辺り、どうやら本当に可もなく不可もなく"まあまあ"な味らしい。

身長差から遥を見下ろしながら、紫原は次々と一定のリズムでそれを口に放り込んだ。

見慣れているものの、人混みでも頭が飛び出す長身の男子高校生が子供のようにお菓子をひたすら頬張っている姿は、彼らしい普段の姿と言えるがしかしなかなかのギャップである。


「…欲しいの?」


遥が黙ってその光景を見つめていたせいか、紫原は手を止めて首を傾げた。


「ううん。ところで、どうしたの?」


何枚目か分からないチップスを噛み砕いている彼を見上げ、問題の4文字メールの意味を訊ねる遥。

電話では、紫原のチームメイトである氷室が関わっているということしか分かっていないのだ。


「あー…室ちんとこっち来たんだけどー、ケーキ屋行く前にいなくなってた」

「?」


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