「何処か行くのか?」


遥の手元に目を落とし、木吉は訊ねる。

ジャージ姿でまさに"今から部活"という格好だが、彼女はバスケ部の拠点である体育館を背に走ってきたのだ。


「コピーしに職員室行くだけだよ」

「そうか。手伝うよ」

「ありがとう。でも先行ってて。多分ゲームしてると思うし…ね」


木吉の表情がやや不満そうに歪む。

が、遥の意図を汲み取ったらしくすぐに頷いた。


「じゃあ先行ってるな。またあとで」

「うん」


遥は数度手を振って別れを告げると、職員室へ向かった。

そもそも始まりが早かったおかげで、部活開始まで時間は十分あるのだが、急いで帰らないと部員たちの気力に添えないかもしれない。

彼らを全力で支えると誓ったマネージャーとして、それは避けたいところだ。


「失礼します」


職員室に到着すると、顧問である武田に事情を話し、素早く人数分コピーする。

その手際は良く、慣れたものだ。

予備も含め枚数を確認し終えると、遥はそれらを抱えてそそくさと職員室を後にしようとした。


「…予定表か」


が、聞き慣れた声と共に横から伸びた腕が、彼女の手中のプリントを攫う。


「俊…!」


鞄片手に帰り支度も済んでいる伊月は、ちょうど日直の仕事を終えたところらしい。

2人は並んだまま、自然と体育館へ足を向ける。


「今日どのクラスも終わるの早かったみたいだから、俊が最後だよ」

「へぇ、珍しいな」


たわいのない話をしながら、2人は、先に集合している部員たちが盛り上がっているであろう体育館内を覗き込んだ。

そして間髪を入れず、揃って一言。


「「え?」」


一体何が起きたのか、そこは屍累々、地獄絵そのものだった。

目の前に広がる思いもよらないその光景の中央で、1人佇むのはカントクだ。


「何があったの…?」


遥は疑問を口にはしたものの、カントクの手元のタッパーに気付き絶句した。

伊月もそれを見て全てを悟ったらしい。


「「…………」」


2人は揃って閉口。

しかし、最終的な選択肢は1つしかない。


「あ、伊月君に遥」


こうして今日も、誠凛バスケ部の活動は始まろうとしていた。




ある日の誠凛(後)


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