「リコと順ちゃんだ」
近付いてきた男女を遥が出迎える。
どこか疲れた様子で体育館を覗き込んだ日向は、部員の集合率に驚いているようだった。
「七瀬にコガたちに1年に……って何だ、今日皆早いな」
「あらホント」
リコも両の瞳を丸くしている。
「ただでさえ終わるの早かったのに、寄り道せずに部活に直行した結果…みたいな」
部員たちの集まりの良さを簡単に説明した遥は、背後を見やった。
彼女がカントクたちと話している間に、水戸部、小金井、土田も1年生たちに加わり何やら戯れているようだ。
体育館の準備は出来ているし、このまま部活開始までミニゲームのコースだろう。
「…オレも着替えてくるわ。あ、七瀬、あとで話あっから」
「分かった」
そう言い残し、何やら思い詰めた様子の日向は更衣室へと消えていった。
楽しげに騒ぐ仲間たちを見て、一体何を感じたのだろうか。
「気持ちいいぐらいにバスケバカよね、皆」
どことなく嬉しそうにリコが言えば、遥も口元を綻ばせ頷いた。
「……あ、しまった!職員室寄るの忘れてた!」
突然大声を上げたリコは、慌てた様子で鞄を開き、中からプリントを抜き出す。
白いそれに並ぶのは、今月の予定一覧。
「一応コピーして皆に配っとこうと思ってたのに…」
「じゃあ私行ってくるよ。着替えてるし、後ドリンクぐらいだから」
リコの手からプリントを抜き去ると、遥は答えを聞く前に歩み出す。
「えっ、ちょっ…」
「リコはまだ準備あるでしょ?」
確かに、彼女はまだ着替えておらず、此処に来るまでに話し合っていた主将との相談も途中で終わってしまっているため、職員室に引き返している時間は惜しい。
困ったように眉を下げたリコは、両手を顔の前で合わせた。
「ありがと。お願いね」
「任せて」
友人に見送られ、遥は職員室への道を小走りで急ぐ。
するとすぐ、前方に見慣れた姿が見えてきた。
「鉄平!」
「おー、遥。こけるぞ」
片手を上げて返事をした木吉だったが、口元が何やら忙しない。
「また飴?」
「ああ。いるか?」
肩から下がっている鞄に片手を突っ込み、彼はお気に入りの飴の袋を取り出す。
「帰りにもらっていい?」
「ん」
だがそれは出番がないまま、すぐに鞄へと逆戻りした。
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