(日常)
その日、2─AはどのクラスよりもHR終了が早かった。
日直である伊月に声をかけてから、遥は早々に体育館へと向かう。
さっさと着替えも済ませ、準備は万端。
他の部員たちが来るまで、まだたっぷり時間はあるはずである。
「モップがけしようかな…」
普段は後輩たちが買って出てくれているので任せっきりだが、今日は自分が一番乗りで時間もあるということで、遥はまず倉庫に向かった。
手早く用意を済ませ、端から丁寧に磨いていく。
「「七瀬センパイ!!?」」
3分の1程終わらせたところで、遥は手を止めて振り返った。
降旗、河原、福田の1年トリオが慌てて駆け寄ってくる。
「あ、こんにちは。3人共早いね」
「「こんにちは!…ってそうじゃなくて!」」
揃いも揃って息ピッタリだ。
遥は面食らい、目を瞬かせる。
「こーゆーことはオレらがしますから!」
「てか、させて下さい!」
「お願いします!!」
何かあったのか、そのあまりの勢いに遥は言葉を失った。
彼女を取り囲み訴える1年トリオの眼差しは、皆真剣そのもの。
「そうだね、私より皆の方が床の調子とか分かるもんね。お願いします」
大したことではないかもしれないが、やはり実際に体育館で動き回る彼らに任せる方がいいだろうと、遥は後輩たちに頭を下げた。
すると当然ではあるのだが、悲鳴のような声が返ってくる。
先輩に頭を下げられて動揺しない後輩はそういない。
3人は急いで整備のために走り出した。
「………どうしよう」
手持ち無沙汰となった遥は、せっせと励む彼らを眺め首を捻る。
下手なことはせず、普段の業務をこなすべきなのだろうか。
「……遥先輩」
「!」
突如すぐ横から聞こえた声に、彼女は大きく肩を跳ねさせた。
次いで足を縺れさせながら声から遠ざかると、後ろにあった何かにぶつかる。
「!」
遥は反射的に振り返った。
「火神くん!」
「っす」
遥の体を支えるように立っていたのは、1年エースの火神。
話しかけたのは、中学高校と彼女の後輩の黒子だ。
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