「…っ!」
遥が意気込んで疑似ダンクを決めると、ネットを潜り落ちたボールが下の方で跳ねる音が聞こえる。
「これがダンクか…」
リングに両手をかけたまま目だけでボールを追っている遥は、1人余韻に浸っていた。
一方、先輩マネージャーの願望を叶える手伝いをしている火神は、特に大きな反応もせず彼女の背を眺めている。
(何かほっとけねーんだよな、この人…)
何かがズレた師匠のせいか、火神にとって女性は苦手な存在だ。
しかし、身近な女性陣であるリコや遥は、女性という前に"カントク"と"マネージャー"なのである。
特に遥の方は、黒子とのツッコミ所満載な先輩後輩関係を見ているせいもあってか、妹のような感覚すら抱いていた。
そのため、けして得意なわけでもないが、苦手というよりはそういう枠の外の存在だったのだ。
「…ん?火神くんどうしたの?」
全く言葉を発さず、更に微動だにしなくなった後輩に声をかけるが、違うところに意識を飛ばしている彼から返事が返ってくるはずもない。
目に映る光景が新鮮な遥はいいのだが、長い間この体勢でいて辛いのは火神である。
「火神くん、私満足したから…もういいよ?」
「あ、ああ…」
漸く我に返った火神は遥を地に下ろした。
はずだった。
「えっ」
「な…っ!?」
固い地面につくはずだった遥の片足が、不安定なものに触れて滑る。
それにつられて、彼女の体を支えていた火神も大きく体勢を崩した。
「いってぇ…」
激しい音を立てて、体育館の床に背を打ちつける火神。
遥はその上に覆い被さるように倒れ込んでいた。
彼女の腰を引き寄せる形で逞しい腕が回っているのは、咄嗟の判断で火神が彼女を庇ったためだ。
「ごめんね、火神くん…大丈夫?」
上半身を起こすと、顔を顰める火神を覗き込む遥。
「あー…、大丈夫っすよ。つか今何が…」
「丁度下にね、ボールがあったみたい」
どうやらダンクの後転がったボールが、丁度遥が下ろされた位置で止まっていたらしい。
運悪くそれを踏んでしまった遥が体勢を崩し、つられて火神も体勢を崩した結果、今の状態になってしまったようだ。
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