(ギャグ風味/タイトルの通りです)
部活終了後、たまたま用事が重なった2年陣のほとんどが個人練を早めに切り上げて帰宅したため、体育館を最後まで使用するのが1年生だけとなった。
唯一用事がなく、施錠を買って出た遥は、帰り支度のために部室へ向かう後輩らを見送ると、ふと下ろしっぱなしだったゴールを見つめ佇んだ。
全面用のゴールは高い。
誠凛の新たなエースである火神は簡単にダンクを決めているが、遥が跳ねたぐらいでは掠りもしない高さにある。
「いいなー…」
「何がすか」
突如背後から返ってきた返事に、遥は勢い良く振り返った。
その行動に驚いたのか、ボール片手の火神は一歩後退る。
気を取り直し、左手で器用にそれを操りながら彼は再度訊ねた。
「何かあるんすか」
「何が?」
「いや、さっき"いいなー"つってたじゃないすか。ゴール見ながら」
火神は遥の真上辺りに位置するゴールを見上げる。
何の変哲もない、何処の体育館にもあるバスケットのゴール。
「火神くんってダンク得意でしょ?」
「まあ…そっすね」
「いいなー…」
先程と同じ呟きを繰り返す。
火神は首を傾げた。
「ダンクが?…ですか」
「うん。私じゃ絶対出来ないけど、気持ちいいんだろうなって」
すぐに返事は返さず、火神はゴールと遥を交互に見る。
プレイヤーではない、普通の女子高生である遥がダンクを決めるのは物理的に不可能。
だが、普通の女子高生だからこそ、助けがあれば可能にもなる。
「オレが持てば出来るんじゃねーすか」
「え?」
「多分届くっすよ」
体格も良く、普段から鍛えている火神なら、遥を持ち上げることなど容易いだろう。
彼の身長は190cmなのだから、遥を抱えて腕を伸ばせばリングの高さに到達するはずだ。
「……でも」
「そんな減るもんでもねーし、したいんだろ?…です」
「ありがとう!」
片手で器用に遊んでいたボールを遥へ渡すと、火神は背後から彼女の脇腹辺りに手を添えた。
少し力を入れれば体は浮き上がり、遥のすぐ近くに念願のリングが現れる。
「高いね…」
普段あまり経験することのない高さに感心しながら、遥はボールを持った両腕を伸ばした。
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