『うっせーよオマエら話全然進まねーからだまってろ!特に黄瀬シバくぞ!!』
『もうシバいてるっス…!』
音声だけで十分伝わる仲の良さに、遥は思わず声を上げて笑った。
「さすが海常、チームワーク抜群ですね」
『悪いな騒がしくて…ってそうじゃなくて』
"主将が他校の女子と電話"という展開に、テンションが上がってしまっているチームメイトのせいで流されてしまった本題を引き戻す。
言い辛そうに言葉を選んだ後、笠松は漸く口を開いた。
『この間は悪かった。その…女子と話すの得意じゃないんだ』
謝罪されるような出来事があっただろうか───と、遥は記憶を辿る。
スポーツ用品店のバスケットコーナーの前に2時間程居座り、ひたすらバスケについて教授してもらった覚えしかない。
笠松も嫌がる素振りは見せず、遥にとって為になる楽しい一時と言える時間だった。
「謝ってもらうようなことされてないですよ?」
『気、遣わせただろ』
真面目な性格故、笠松は己のややぎこちない言動を気にしていたらしい。
そのためわざわざ後輩の携帯を借り、チームメイトに何か言われながらも今こうしているのだ。
「私は気にしてないですし…また機会があれば、相手してもらっていいですか?」
『…ああ。こちらこそ』
と、笠松とスポーツ用品店で出くわしたあの日のことで、あることを思い出した遥は"そう言えば"と切り出した。
「向かいの楽器店を気にしてたみたいでしたけど、音楽お好きなんですか?」
『!!?』
油断していたため盛大に噴き出す笠松。
思わず握り締めた黄瀬の携帯が鈍い音を響かせる。
「あれ、違いました?」
例のスポーツ用品店の向かいには楽器店が入っているのだが、2人で店を後にした際、笠松がそちらを見ていたことに遥は気付いていたのだった。
彼女は特に大きな理由もなく訊ねたのだが、笠松に衝撃を与えるには十分な話題だったらしい。
『楽器をちょっと…な』
「スポーツも出来て音楽も出来るんですね…凄いです」
『凄いって言う程でもねーだろ…』
「機会があれば聴かせて下さい」
『……考えとく』
朗らかな会話を続ける、照れた様子の海常主将と、海常主将への尊敬の念が募る誠凛マネージャー。
その海常主将の後ろでは、先輩2人に体を押さえつけられた携帯所有者と、先輩命令で後輩を押さえつけている熱血漢と、主将をからかいつつ自分の番を待つ女好きが騒ぎ続けていた。
『いい加減にしろオマエら!!!』
「あ、また怒られてる」
はじめの第一歩
← return
[3/3]