「…………」

「…………」


暫しの沈黙。


「えっと…レッグスリーブ買いに来られたんですか?」


このままさようならと言うわけにもいかず、悩んだ末に遥は訊ねる。


「…ああ。このメーカーのはずっと気になってたんだ」


笠松は答えながら、先程取り損ねた商品に手を伸ばした。

その眼差しは力強く真剣そのもの。

見るからに真面目で、プレイヤーとしても有名な笠松が目を付けている品なのだから、この商品は注目する価値のあるものなのかもしれない。


「良かったら、色々教えてもらっていいですか?」

「教えるって…」

「全国屈指のPGで、強豪海常高校の凄腕主将とお話し出来る機会なんて、もうないかもしれないじゃないですか」


雑誌でも取り上げられている通り、笠松は実力のあるプレイヤーだ。

直接その実力を見た遥にとっても、尊敬に値するキャプテンシーと姿勢を持った人物だった。

ならば好機逸すべからず、教授願う他ない。


「なっ…」


雑誌に載る程の実力あるPGで、強豪海常高校の主将だというのは全て事実ではあるが、面と向かって盛大に褒められた笠松の頬に紅が走る。


「まあ…答えられることには答える」

「ありがとうございます」


バスケに関わる者同士断る理由もなく、女性が苦手な海常主将は遥を一瞥すると、肯定を示し頷いた。

全国レベルのプレイヤーと話す機会を獲得し、遥は嬉しそうに礼を述べる。


「早速ですけど、このレッグスリーブって───」









数日後。


「涼太から電話…?」


着信を知らせる携帯のディスプレイに表示された名前を見てから、遥は通話ボタンを押した。


「涼太?どうしたの?」

『………』


いつもなら、飛び込むように発せられるはずの声がない。

が、やけに後ろが騒がしいようだ。


「……?」


間違って通話ボタンが押されてしまったのかと疑問符を浮かべていると、思いがけない声が届く。


『……七瀬、だよな?今、黄瀬の携帯借りてんだ』

「笠松さん!お久しぶりです」


つい先日聞いたばかりの声に、遥は瞬時に挨拶をすると、騒がしかった向こうの背後が更に騒がしさを増した。


『ちょ、離して下さいっス森山センパイ早川センパイ!オレも話したい!つかオレの携帯っスよそれ!』

『ハイハイ。笠松ー、終わったら次オレね』

『森山サン!オ(レ)いつまで押さえて(れ)ばいいんすか!!?』


賑やかなのは、近くに海常レギュラーがいるかららしい。


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