「どうしたの、さつきちゃん。また青峰くん?」


すぐ近くで揺れる桃色の頭は、マネージャーであるさつきのもの。

どうやらまた、幼馴染みと何かあったらしい。

ケンカとまではいかないが、この2人が言い合うのは日常茶飯事だ。


「私が何言っても聞かないんで、先輩から言ってやって下さい」


端麗な顔に不満を浮かべて訴えるさつきの後ろから、抗議の声が届く。


「オマエ、何かあったらすぐ遥んトコ行くのやめろよ」


声の主は、彼女の幼馴染みかつ、やはり部内では一目も二目も置かれている青峰だ。

唇を尖らせているさつきと、眉間に皺を刻んでいる青峰を交互に見て、遥は口を開いた。


「"今日は何の話?"って訊いた方がいい?」

「訊いて下さい!」

「訊くな」


幼馴染みの返事は面白い程見事に重なる。


「2人ほんと仲良いよね。羨ましいな」


付き合いの長さと思春期故の仲の良さを目の前に、遥は素直に感心していた。

否定しようとした青峰だったが、視界に入った壁掛け時計を見て顔色を変える。

時刻は部活開始5分前だった。


「もう時間じゃねーか」

「痛い痛い…!」


青峰は何を思ったのか、遥の頭を鷲掴んで撫で回す。

それで満足したらしく、乱れた髪を整えている遥を鼻で笑ってから準備のために走り去った。


「もう、青峰君ったら…」


頬を膨らまして幼馴染みの背を見送るさつきに、遥は微笑みながら声をかける。


「さつきちゃん、私たちもさっさと準備しないと遅刻だよ」

「あ、そうでした!」


後輩マネージャーは慌てて準備に取り掛かった。

支度はあらかた終わっているとは言え、遅刻しては意味がない。

遥も自分の身の回りを素早く確認する。


「じゃ、行こっか」

「はい!」


顔を見合わせ、マネージャー2人は部員たちの許へと駆け出した。




ある日の帝光


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