遥が次の作業に取り掛かろうとしたとき、急に背中に圧力がかかった。


「遥ちん疲れたー」


遥を押し潰さん勢いで背中に覆い被さっているのは、赤司と緑間と同様に部内では一目も二目も置かれている紫原だ。


「こんにちは紫原くん。多分、このままだと私潰れると思うんだけど…」

「え〜」


圧力がなくなり胸を撫で下ろすと、遥は後輩を見上げた。

高い位置にある紫原の顔からは、確かに疲労が見て取れる。


「ほんとに疲れてそうだけど大丈夫?体調悪いの?」

「んーん。体育したばっか」


紫原はダルそうに首を傾けると大きな溜め息を吐いた。

いつも気怠げではあるが、今日はまた特別だったようだ。


「しかもバスケだったし…はー…お腹空いた…」


そう言い残すと、やや足取り重たげに、彼も自身の準備をしに行ってしまった。


「いつも練習は真面目にしてるし…まあ大丈夫、かな」


その大きい背中を眺めながら呟いていると、今度は寒暖差の激しい2人が視界に入る。


「待ってよ黒子っちー!」

「待つも何も、目的地は同じじゃないですか」


遥はいつも通りのやり取りに双眸を細めつつ、前の3人と同様に部内では一目も二目も置かれている黄瀬と黒子を出迎えた。


「黄瀬くんと黒子くん、こんにちは」

「あ、七瀬先輩…」


こんにちは、と先に挨拶を返したのは黒子。

黄瀬は遥の姿を見るや否や泣きついた。


「聞いて下さいっス、センパイ!黒子っちヒドいんスよー!」

「毎日毎日大変だね」


黄瀬をあやすように慰めていた遥がふと視線を逸らすと、いつもの表情で静かに様子を窺っている黒子と目が合う。


「黄瀬くんの言うことが全部本当だとは思ってないよ…?」

「さりげなくセンパイもヒドいっス!」


黒子が何を考えていたのか遥には分からなかったが、彼はほんの少しだけ口角を上げて答えていた。


「黄瀬君、いつまでもそうしてないで行きましょう。先輩の邪魔になります」


黒子に引き連れられる黄瀬を手を振りながら見送ると、遥は大きく息を吐く。

やはり、後輩が仲良くしている姿を見ると嬉しくなるものだ。

遥は今度こそ作業に取り掛かろうとしたが───


「遥先輩聞いて下さい!」


聞き覚えのあるセリフと共に、突如柔らかいものが腕に押し当てられた。


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