2人揃ってコートへ戻ると、置いてきぼりを食らい寂しく転がる緑間のボールが待っていた。
遥はそれを拾い上げると、フリースローラインに向かう。
自分の正面、高い位置にあるバスケットを見つめ集中。
両手で支えたボールを、膝のクッションを使ったジャンプと共に押し出す。
距離はともかく、一番難易度が低いであろうそこから放たれたボールは、バックボードに当たった後ネットを潜っていった。
「あ、入った」
遥が思わず振り返ると、おしるこ片手に緑間は微笑んだ。
彼に微笑み返してから端まで転がったボールを拾って、今度はスリーポイントラインへ向かう遥。
正面ではあるが、先程より遠くなったバスケットを狙い、シュートを放つ。
すると今度は軌道も逸れた上に力も足りなかったようで、リングの手前側に弾かれてしまった。
「順ちゃんや真太郎はバンバン入れるけど、そう簡単にはいかないよね」
成功率の高いシューターと比べるのは間違いだろうが、そんなプレイヤーを近くで見ていると簡単に思えてしまうものだ。
遥はボールを拾い、再度ゴールと向き合う。
バスケットの真正面、スリーポイントライン。
両手でボールを頭上へ引き上げ、ゴール目指して目一杯の力を込めたら後は祈るだけである。
「もう少し肘を」
後ろから聞こえたのは低く落ち着いた声。
遥が振り返ろうとすると、肩に手を置かれ動きを制される。
緑間は動きを止めた遥の肘に手を添えると、内側に優しく押した。
「膝ももう少し使うと飛距離は伸びるはずです」
それだけ言うと、緑間の気配は遠ざかる。
ゴールと向き合う遥に彼の姿は見えていなかったが、彼を知っているからこそ確信していた。
「人事を尽くしてる真太郎が言うんだから、これ入るよね」
「……当然です」
思ったより近くから返事は返ってくる。
遥はアドバイス通り、そして確かな自信を持ってボールを放した。
エアボールはまず有り得ない軌道だ。
「落ちるはずがない」
ブザービーターの如く、ボールがネットを潜ると街灯が点灯し始めた。
四方が照らされ明るくなったコートで、遥も緑間も満足そうである。
緑間はポケットにそっと手を当てた。
布越しに感じられるのは四角く固く、少々厚みのあるモノ。
朝、占いを見てから散々な目に遭ってきたが、今となればそれもいい経験だと割り切ってしまえそうだ。
「……七瀬先輩」
「んー?」
深さを増した夜空には星が輝いている。
今日終了まで、残り5時間。
本日蟹座第6位
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