カメラを持った緑間はボタンの位置を軽く確認すると、腕を前へと伸ばした。
遥より自分が撮った方がいいと判断したのだろう。
「撮りますよ」
シャッター音の後、先程と同じように真っ白な写真が吐き出される。
浮かび上がるまで暫し待つと、今度はどんな表情をしているのか分からないぐらいにブレてしまっていた。
「む…」
緑間は写真を見ると顔を顰める。
確かに位置取りは悪くなく、ブレなければ2人の顔は綺麗に枠内に収まっていたはずだ。
あわよくば、背後のバスケットゴールも写っていたかもしれない。
「やっぱり私が撮るより真太郎に任す方がよさそうだね。もう1回撮ってくれる?」
「はい」
緑間が再度カメラを構える。
遥は彼に出来るだけ近付き、縋り付くように顔を寄せると笑みを作った。
一瞬戸惑いを見せる緑間だが、"我慢"の一言を胸中に刻んでシャッターを切る。
それから、傍から見れば不思議な行動をコート上で繰り返すこと、約5分。
通算何枚目かの写真を覗き込むと、漸く目当ての構図が浮かび上がってきた。
「あ、ちゃんと撮れたよ!ほら」
小さな白い枠の中には、顔を寄せ合い楽しそうな遥と、はにかんでいる緑間。
背後に佇むゴールも一部写り込んでいる。
これ以上ないベストショットだろう。
「今の忘れないうちにもう1回!」
遥に頼まれた緑間が最善の注意を払って撮影すれば、似たような写真がもう1枚出来上がった。
その写真の1枚は緑間の手に、もう1枚は遥の生徒手帳に。
気になる異性と自分が写っている写真だが、ラッキーアイテムとしての条件は満たしているはずだ。
「ありがとうございました」
「私こそありがとう。真太郎との2ショットってレアだよね」
おそらく、レアどころではないぐらい貴重な1枚だろう。
「せっかくだし、ちょっとしてく?」
遥が言いながら指を差したのは、写真にも写っていたバスケットゴール。
ラッキーアイテムがなかったために満足のいく練習が出来ていなかった緑間は、少しだけと頷いた。
きちんと着込んでいた制服を軽く崩すと、手持ちのボールを鞄から取り出し、テーピングを外していく。
占いが当たっているのなら、これからの彼は絶好調なはずだ。
手短に、だが入念にストレッチも行ってから、緑間はスリーポイントラインからボールを放った。
彼特有の放物線を描き、手を離れたボールはリングのど真ん中へと吸い込まれる。
美しさすら感じさせるそのスリーポイントシュートに、脇で見ていた遥は思わず手を叩いていた。
響く小さな拍手に緑間は振り返る。
「やっぱり真太郎のスリーは綺麗だね」
「…当たり前なのだよ」
緑間は僅かに口角を上げた。
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