緑間真太郎は驚愕していた。

手には、少し前に流行ったインスタントカメラの類が握られている。


「………」


彼が此処に来るまでの運勢は、占い通り絶不調。

予習してきたノートは忘れるし、全ての授業で当てられるし、何故かシャープペンシルが壊れるし、高尾のおふざけに巻き込まれて教師に怒られるし───占い結果が最下位ではないかと疑う程に不調だった。

そんな彼が、やはりラッキーアイテムがないせいか調子が悪いまま部活を終えて向かった先は、ストリートのバスケットコート。

ストリートに行こうと言い出したのは勿論本日絶不調な緑間でも相棒でもなく、彼の隣でご機嫌な様子の遥だ。


(確かにオレは先輩の写真が欲しいと言った。だがまさかこうなるとは……)


彼の救いになるはずのメールの返信内容は、"今ないから、放課後一緒に撮ろう"だったのだ。


「フィルム新しいの開けたばっかだから安心してね」


しかもストリートで。


「……はい」


ラッキーアイテムは"気になる異性の写真"だったのだから、遥の写真ではなく彼が好きな芸能人の写真でもよかっただろうし、部活終了後のこの時間に撮るぐらいなら諦めてもよかったはずだ。

だがそうしなかったのは、彼が真正のおは朝占い信者であり、根が真面目な人物であり、そしてやはり"気になる異性"である遥と会えるからと、少なからず下心があったからなのだろう。


「これ自撮りで2人ちゃんと写るかな…」


緑間に持たせていた四角いカメラを手に取ると、遥はファインダーを覗き込んだ。


「そう言えば、写真何に使うの?」

「今日のラッキーアイテムだったので」


撮影のための簡単な調整を行っていた遥は、手元のカメラから緑間へと振り返る。


「え、うそっ、もう今日終わっちゃう!」

「占いがよく当たると証明されましたし、まだ今日が終わるまで時間はありますから」


そうは言うものの、"今日"は終盤に差し掛かろうとしていた。


「じゃあさっさと撮って、今すぐ補正しないとね」


遥は緑間にしゃがむように指示すると、カメラを持つ片手を目一杯前へ伸ばしてシャッターを切る。

すぐに吐き出された真っ白なままの写真。

遥が両手で挟んだり振ったりを繰り返した後、漸く現れたのは、遥と緑間の2ショット───ではなかった。


「2人共顔切れてるね」


満面の笑みの遥も、照れたように視線を外している緑間も、顔が少し切れてしまっている。


「……貸して下さい」


そう言われた遥は写真を渡そうとしたが、軽く手を振って制された。

緑間が欲していたのは写真ではなくカメラの方らしい。


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