「濃厚っスね。でも美味いっス」
「でしょ?」
色々な意味で口内から簡単に消えそうもない甘さに浸りながら、黄瀬はやや迷った末に訊ねた。
「食べるっスか?……こっち側ならまだ口付けてないし」
「いいの?ありがとう」
「どーぞっス」
コーンが差し出され、遥の手が黄色い塊を奪っていく。
「涼太の髪の色だね」
無邪気な一連の言動を、黄瀬ははにかみながら見守っていた。
そんなことを知らない彼女の薄く開いた唇の隙間に、スプーンは消えていく。
「すっぱ…!」
途端に広がる、浄化するような爽やかな酸味に口を結ぶ遥。
想像以上の刺激の強さに眉を寄せる。
「そんなにすっぱいっスか?」
彼女は酸味が苦手だっただろうかと、黄瀬もジェラートを口に含んだ。
「すっぱ!!!」
先程とは桁違いの刺激に思わず声を上げる。
その理由は、口直しと言わんばかりに続けてミルクに手を出している遥の発言で明らかになった。
「そっか、チョコ食べた後だからだね」
「…納得っス」
「はい、あーん」
遥に差し出されたスプーンには白い塊。
自分のためにミルクフレーバーを食べさせてくれるのだろうと察しはしたが、黄瀬は別の意味で溜め息を吐いてから、僅かに頬を染めてそれを口に入れた。
チョコには及ばないが甘い。
レモンには及ばないが後味爽やか。
それでいて滑らかな口当たりを残し、消えていった。
「遥センパイ」
「ん?」
「レモンすっぱいっス」
「ごめんね、チョコの後だと余計すっぱくなったよね」
「そうじゃなくて……や、もうそうでもいいっスけど」
「違った?」
煮え切らない様子の黄瀬に、遥は首を傾げる。
口内に残る仄かな甘さのおかげで、刺激の増した酸味は消えつつあった。
次はチョコにしようか、ミルクにしようか───。
「…………クリームチーズも食べていいんで、チョコとミルク、もう一口ずつ欲しいっス」
「またすっぱくなるよ?」
周りの女性客が「黄瀬くんが…」と密かに騒いでいるのにも気付かず、遥は躊躇いもなくスプーンを差し出した。
この間接キスもとい傍から見たらバカップルにしか見えないやり取りは、終わる気配を見せない。
(ここで奪っちゃったーってチューでもしたら、意識してくれるんスかね)
そして黄瀬はこの後、自ら仕向けたレモンフレーバーのキツめの酸味を胸に刻むことになるのである。
(すっぱいっス…)
4gオーバー
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甘味<酸味になってしまったので、黄瀬くんに奪ってもらいました→
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