「ごめん、今日私抜きでお願いします!」
黄瀬は更に目を丸くした。
「いいけど、明日きっちり説明してもらうわよ!」
「モデルに負けた…!?」を連呼する男たちを叱りつつ、リコが返す。
「了解です!ごめんね、お疲れ様!」
それぞれ手を振り、捨て台詞のような別れの挨拶を残しながら、チームメイトたちは背を向け歩き始めた。
「……よかったんスか?」
「うん。大した話じゃないから。それに涼太の方が早かったみたいだしね、約束」
遥は黄瀬の制服の袖を引いて歩き始める。
「楽しみっスね」
「うん!」
*"本場イタリアの味!"と銘打っているだけあって、店内は満員、店の外にも人がごった返していた。
運よくすぐに購入出来、これまた運よく2人掛けのテーブルを確保出来た遥だったが、問題は黄瀬だ。
店が店だけに女性客の方が多いため、知名度が低くない彼はジェラートどころではない。
お得意の笑顔で応対し、遥との関係についても正しく答えて漸く辺りが落ち着いた頃、遥が着席してから5分は経過していた。
「は〜…お待たせしましたっス」
「何処行っても大人気だね。お疲れ様」
草臥れた様子の黄瀬を見て、遥もさすがに苦笑いだ。
「うわ、しかもスプーン落としたみたいっス…最悪」
カップであれコーンであれ、プラスチックの小さいスプーンが添えてあるはずなのだが、黄瀬の手のコーンの上には見当たらない。
取りに行くのも億劫なのか、そのまま名前と同じ黄色いジェラートに齧りついた。
「うま…」
「噂通り美味しいね」
遥もカップに入った茶色いジェラートを掬い、口に含む。
濃厚な甘さが口いっぱいに広がった。
「それフレーバー何スか?」
「チョコとミルクだよ。涼太のは?」
「上がレモンで下がクリームチーズっス。センパイの甘そうスね」
「チョコは甘いけど、ミルクはちょうどいいかも」
遥は再度チョコフレーバーを掬うと真っ直ぐ前に差し出す。
黄瀬の動きが止まった。
「え」
「お裾分け」
自分の方へ突き出されたスプーンを見、それから一度目を泳がせる。
「……………どもっス」
様々な葛藤があったのだろう、何やら間を置いた後に、黄瀬はやっとの思いでそれを口に含んだ。
舌先に触れた途端に、甘く重く蕩け出す。
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