そしてそれから約5分後、ファンを満足させた黄瀬が駆け寄ってきた。


「スマセンッス、センパイ───って、誠凛の皆さんもいるんスか」


黄瀬の言う通り、遥から少し離れたところで2年陣が待機している。


「これから皆とマジバでミーティングするつもりだったから…。長くなるようなら先に行っててもらうけど」

「ぇえ!?今日の放課後、迎えに行くから空けといてって言ったじゃないスかー!フラれた〜!」


泣き顔で訴えられるが、遥の頭には"?"が浮かぶばかりだ。


「え?聞いてないよ?」

「ちゃんとメール送ったっスよー!」


ポケットから取り出した携帯を素早く操作すると、黄瀬はディスプレイを翳してみせた。

それには遥宛の送信済みのメールが表示されており、確かに黄瀬の言った通りの内容が書かれてある。


「あ、ごめん。鉄平とメールでしりとりしてたら電池切れちゃって、昼ぐらいから見れてないの」

「ええ!?つか鉄平ってダレ!?男っスよね!?彼氏!!?」

「あれ、木吉鉄平知らないっけ?私のおじいちゃんとおばあちゃんが───」


遥の説明を聞いているのかいないのか、眉を下げ、モデルとは思えない程情けない表情で嘆いている黄瀬。

遥はそんな黄瀬の制服を両手で引いて無理矢理屈ませると、爪先立ちで明るい色をした頭を撫でてやる。


「イケメンが台無しだよ。で、何の用だったの?」


遥は先程見せられた、自分宛のメールの内容を思い出していた。

そこには、"迎えに行くから、部活が終わる頃にメールが欲しい"といった旨は書かれていたが、その理由は書かれていなかったのだ。

顔を上げた黄瀬の口元は"へ"の字のままだったが、遥のメール相手のことは置いておくことにしたらしい。


「……駅前に出来たジェラート屋さん、センパイ行きたいって言ってたじゃないスか」

「うん」

「あそこ、仕事仲間も皆美味しいって言うし、センパイと一緒に行こうと思ったんスよ。サプライズで」

「…うん」

「今日ならオレ東京いるから、ちょーどよくて。ま、返事待たずに押し掛けたオレが悪いんスけど…」


段々と声が萎んでいく。


「あー、でも、部活とか仲間とかそーゆーの…なんとなくオレも分かるようになったスから」


黄瀬は苦笑しながら遥を見た。

切れ長の綺麗な双眸は悲しそうな色をしているが、けして曇ってはいない。


「また出直すっスよ」

「時間あるんだよね?」

「…え?」

「まだこっちにいて大丈夫なんでしょ?」

「大丈夫っスけど…」


遥は、目を丸くした黄瀬からチームメイトに視線を移す。


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