「ん?」
自分の手札を確認していた木吉は、どうしたのかと顔を上げる。
「ごめん、鉄平。手四6文で私の勝ち」
「マジか!」
遥の手札には牡丹の札が4枚全て揃っていた。
試合開始時点で、手札に同じ月の札が4枚全て揃っている"手四"と呼ばれる手役の効果により、遥は即勝利、本来なら6文を取得して次の月へ進むのだが、今回は最終月だったためゲーム終了となってしまうのだ。
「最終月で手四か…コレは反撃出来ん。遥強いな」
「このまま流れに乗りたいとこだね…。でもそう言えば、これ配ったの鉄平じゃない?」
「ん?……オレか!」
「あーあ…。これで1対1だよ」
「よし、次は"こいこい"決めてみせる!」
3ゲーム目を開始するため、今度は遥が札を集め用意し始める。
「おっはよー!」
と、そのとき、元気よく挨拶しながら小金井が部室に入ってきた。
彼の目に飛び込んできたのは、ベンチを陣取り向かい合って意気込んでいる遥と木吉。
その2人の手には、長方形の札が見て取れる。
小金井の後ろにいた水戸部も、前に広がる光景に目を丸くした。
「え、木吉と七瀬ちゃん、朝っぱらから部室で何してんの?」
「あ、コガくんと凛ちゃんおはよう。2人共早いね」
「おはよう。こいこいやるか?面白いぞ」
水戸部は首を小さく振り、遠慮を見せる。
「花札?」
小金井が訊ねると、遥は札を場に出しながら言った。
「うん。これで私が勝ったら、今日のお昼鉄平の奢りプラス今晩鉄平1人で食器洗い」
「オレが勝ったら晩飯にデザートがついてくる」
「……………………あ、そうなんだ。頑張って」
「ありがとう、コガくん。って"菊に盃"取られたー!」
「いやー、やっぱコレを場に出しとくのは賢くないしな」
この対決は、この後すぐにやってくる主将によって無効になってしまうのだが、札片手に白熱している2人はまだ知る由もない。
※2人は真剣です
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