(ギャグ風味)



静まり返った部室に木吉が息を飲む音が響いた。

その拍子に彼の喉仏が大きく動く。

自分の手元、自分の置き場、向かいの遥の置き場、そして最後に見えるはずのない遥の手元に視線を移すと、木吉は再度自分の手元に視線を落とした。


「さぁ鉄平どうする?"こいこい"?それとも"勝負"?」


開始してまだ数分、手札は半分残っている。

今までの結果から考えても、木吉が無理をする必要はない。

しかし残る手札も場札も悪くなく、遥がどう動いても次で確実に追加可能という状態。

リードしている彼からすれば、今勝ち逃げするか、次に突き放して勝ち逃げするかの違いである。

ここで重要なのは遥の置き場だ。

猪と鹿は取られているが、残る蝶は木吉の手札。

"柳に小野道風"は、他の光札が取られていないので注意する程の札ではない。


「……"こいこい"!」


木吉の言葉を聞くと、遥は手札1枚を場札の上へ重ね、続いて黒い無地の背しか見えない山札から1枚引くと、また別の場札の上へ置く。


「あ」


木吉がそのことに気付いた頃、遥は嬉しそうに合札を回収し、置き場へと並べていた。


「やった、タネ1文!勿論"勝負"よ鉄平っ」

「やられた!コレは読めなかったな…」


種札5枚が綺麗に並べられ、この月の負けが確定した木吉は悔しげに頭を掻く。


「相手の"こいこい"後だから2文ね」


遥は、傍らに置いてある紙の縦軸"11月"、横軸"遥"が交わる枠に"2"と記入した。

その間に木吉は札を回収し、次の最終月の対戦準備に入る。

慣れた手付きで集めた札を切り、場札を8枚、お互いの手札を8枚ずつ用意した。


「まだ5文差で鉄平の勝ちか…。"花見で一杯"か"月見で一杯"が出来ても同点って辛いかも」

「うーん、さっさと決めて逃げ切らないとコッチも危ないな」


11月までを終え5文差で負けている遥にとって、最少2枚構成の役の、"花見で一杯"と"月見で一杯"が出来ても同点にしかならない状態はかなり不利だ。

一方木吉は現段階で勝っているため、どんな役でもいいから遥より早く"勝負"すれば勝ちなのである。


「じゃあ私からね」


今ゲームの最終月、先手は11月を制した遥。


「あ」


配られていた手札に目を通した途端、彼女は短く声を上げた。


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