「ずっとボールしか見てないから、テツヤのミスディレクションも効かないみたいだね」

「そうみたいです。意外でした」


遥は両腕を上に突き上げ、そのまま軽く身体を捻る。


「体育もバスケじゃないし、試合なんて久しぶり。シュートは全然入らなかったけどね」

「綺麗なレイアップだと思いましたけど」

「いつも見てる皆のフォーム真似しただけだよ。私が下手なの知ってるでしょ?」


黒子は誤魔化すように、ほんの少しだけ苦笑した。

彼の記憶に残る彼女は、お世辞にもバスケが上手いとは言えない。

マネージャーとして"見る"ことは出来ても、実際に"する"ことは出来ないのだ。


「いつもマネージャーとして支えて下さって、ありがとうございます」


黒子は遥と向き合うと頭を下げた。


「あ、ご丁寧にありがとうございます。お役に立ててるなら嬉しいです。テツヤも毎日練習お疲れ様。今日来てくれて助かったよ、ありがと」


姿勢を正し同じように頭を下げて告げてから、遥は横目で3on3を確認する。

何事もなく試合は続いているようだ。


「ねぇ、テツヤ」

「はい」

「バスケ好き?」


黒子の表情が揺れた。


「バスケ楽しい?」


続けざまに放たれる問い。


「好きです。楽しいです」


黒子の中で、答えは明確に決まっていた。

一瞬間を置いたが、簡潔に言い切ると同じ問いを投げ返す。


「遥先輩はバスケが好きですか?楽しいですか?」

「うん。大好きだし楽しいよ。この学校選んで良かった」

「…ボクもです」


そのとき、悲鳴のような声と共にボールが跳ねながら向かってきた。

遥は反射的に身を引いたが、勢いが弱まったボールを拾い上げると、試合を中断している小学生たちに向かい叫ぶ。


「マジバーガーで休憩したい人ー!」

「「はーい!!」」


揃った元気の良い返事を受け、遥は立ち上がった。

彼女を追って見上げる形になった黒子の双眸に映るのは、差し出すように伸ばされた手だ。


「テツヤはやっぱりバニラシェイク?」


促すように1度揺らされた手を借り、黒子も腰を上げる。


「はい、そこは譲れません」


纏めて置きっぱなしであった荷物を手早く片して集まると、一行はファーストフード店へ足を向けた。


「……遥先輩、」


小学生に囲まれている遥の少し後ろを歩きながら黒子は小さく呟くも、躊躇った様子で言葉を切る。


「クーポン使うから大丈夫だよ」


伝わっているのか、いないのか。


「……はい」


目を丸くした黒子だったが、その後すぐ、ごく僅かに破顔した。


「ありがとうございます」




注文はいつもの


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